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ワタツミの騎士 第3話

ワタツミの騎士 第三話 『ワタツミ、目覚めるとき』 20081208~ 修正20110807(最終更新20180605)

 


 速水さんについて辿りついた場所は、東体育館から少し離れた花壇園。園芸部の部員が丁寧に手入れをしているために、いつでも、とても綺麗な場所だ。
 花壇の端に座り、速水さんは話し始めた。

 

「ルール説明からしようか。紙に書いてある通りだから、補足を交えて話すね。」

 

 疑似闘人大会というだけあり、今大会は武器を使用したうえで戦闘が行われる。武器の種類については予め委員会が用意したもののみを選び、それを使い対戦をする。言うまでもなく、試合中の危険行為は即失格とし、同時に寮謹慎の罰まで下される。危険行為というのは、相手が戦意喪失状態のときや棄権表示を出しているにも関わらず攻撃することなどを言うが、基本的に主審の判断に委ねられる。
 そして、今回は参加者全員が首からワタツミ章のレプリカを提げ、主将となる。サポート係は主将を守ったり相手の隙をつくったりすることを目的とし、主将同士の一騎打ちまでを盛り上げる役である。形式は団体戦者のようではあるが、実際には主将に手を出さず周りでパフォーマンスを見せるだけなので、実質個人戦形式となる。
 棄権表示については『武器を捨てる(自ら手放す)』『両手を後頭部へ回し、床に膝をつける』といったものがあり、棄権表示をした途端に勝敗は決する。戦闘を終えたら速やかに武器をサポート係へ渡し、退場すること。

 

「いろいろ決まりがあるけど、普通にしていればファウルも出ないだろうし、そんなに意識する必要もないと思う。ここまででなにか質問はあるかな?」

 

 速水さんの言葉におれは首を横へ振った。分かりやすい説明だったし、最低限知っておきたかったルールも判明したので、他になんの疑問も浮かばなかった。

 

「すごく分かりやすい説明だったから、大丈夫。ありがとう。なんとかがんばれそうだよ。」
「いえ、こちらこそ。私も全力でサポートするので、一緒にがんばろう。」

 

 おれたちが東体育館へ戻ると、会場内がどっと沸く音が聞こえた。第二試合の勝負が決した合図だ。忘れかけていた緊張が再び襲いかかってきて、おれは武者震いをした。

 

「行こうか、鷹羽くん。」

 

 試合を終えたひとたちが出てきて、おれの隣を通過していく。外見には特に怪我の様子もみえなかったので、おれは少しだけ安心感を覚えた。速水さんに頷いておれは扉をくぐる。
 めまいがした。会場を埋め尽くす生徒の興奮しきった様子が目に飛び込み、鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどの騒音が耳を痛くする。正直、緊張とかそういう次元を越えて、なんだか怖く感じてしまった。

 

「対戦相手は同じ学年の沢木雄司(サワキ ユウジ)くんだよ。カラテを習っていたらしいから、気をつけて。」

 

 速水さんの耳打ちがかろうじて聞き取れた。ガタイのいい黒ジャージの男子は、余裕そうな表情でおれを眺めていた。いや、むしろ完全におれを舐めきった、見下したような印象だ。会場の様子に気圧されていたことなどすぐに頭から消え、代わりに闘争心に火がついたみたいで、おれは彼を睨んだ。

 

「武器はこの中から選んでください。戦闘中に使用武器を交換することはできませんので、心得てください。」

 

 生徒会のかたが武器の入れられたかごを三つも運んできた。木刀や長柄の棒をはじめ、短刀(恐らく木製)、投擲用らしい短い木のナイフなど、いろいろとある。相手の沢木くんは迷わず長柄の棒を選んで手にしていた。おれはどうしようか。得手な武器など分からない。

 

「鷹羽くん、コントロール力が半端ないから飛び道具がいいんじゃないかな。このナイフとか、ゴムボールとか。」

 

 悩むおれに、速水さんが推してきたのは投擲用の木のナイフや、ゴム製の手のひらくらいの小さなボール。誉められるほどコントロール力なんてあったかどうか自分では甚だ疑問だったけれど、あまり時間をかけてしまっても迷惑だし、自分では決められないしで、速水さんのアドバイスを聞くことにした。
 指先から手首辺りまでの長さの、比較的小さな木製ナイフの数は10本。両手に二本ずつ装備し、残りはポケットにしまう。さながら忍者の手裏剣のような持ち方ではあるが、あえて気にしない。

 

『さあ。第三試合開始までもう間もなくです。今一度、対戦カードをご紹介します。』

 

 白ジャージのひとがプロレスのような実況をしている。彼の声は館内に響きわたり、わあっと観客が盛り上がった。

 

『西に立つのは高等部一年の沢木雄司。彼のサポート係は高等部二年、個人戦二等生の島津太陽(シマヅ タイヨウ)。武闘派チームです。』

 

 波が押し寄せるようにまた会場が沸いた。相変わらず沢木くんの表情は余裕そのもの。彼の左隣には見慣れない男子生徒がいる。サポート係として二年の闘人生の先輩がつくらしい。島津先輩は、沢木くんと同じくらいの体格で、彼もまた、とても余裕そうに歯をみせている。島津先輩は速水さんと同じ、緑の三つの星がついた徽章を、右胸元に装着している。彼ら二人とは距離があるのに……なんというか、こんなにも離れているのに、不安や恐れがまたおれの体を硬直させる。沢木くんはカラテを習っていたという。それも、とても腕がたつらしい。……いや。カラテがなんだっていうんだ。怖くなんてない。大丈夫だ。
 すう、と深呼吸をして落ち着きを取り戻す。耳に実況が響いてきた。

 

『東に立つのは、高等部一年の鷹羽白刃。サポート係は高等部一年、個人戦二等生の速水咲子。将来有望チームです。』

 

 また波が押し寄せ、つかの間、実況が途切れた。開始まであと二分。改めて構えを整え、おれは精一杯の威嚇をみせた。威嚇といっても、じっと、沢木くんを睨むことしかできなかったけど。でも、そんな強気な様子を見せたためか、沢木くんの表情にも少し緊張の色が浮かぶ。口許は笑っているが、目はおれから逸らされない。
 勝ち負けじゃないんだ。勝とうが負けようが、それはどちらでもいい。……優勝してクラスのひとたちと騒ぐというのはこの際、考えずに。ただ、全力を出し切ろう。たてた目標はそれだけだった。

 

「危なくなったらすぐに呼んで。なんとかするから。」

 

 速水さんがいう。彼女の得物だろう、右手にはバトン部が使用するような棒があり、それを不敵にも島津さんに向けている。挑発だ。相手の島津先輩の左手にある木刀もまた、速水さんへ差し向けられていた。

 

『主審が今、センターサークルに立ちました。カウント10。どんな戦闘になるのか、期待は増すばかりです。』

 

 主審の生徒が左手をゆっくりと天へ伸ばす。垂直状態を保ち、間をおいて、

 

「開始!」

 

 腕を振り降ろした途端に姿を消した。刹那、おれの隣の速水さんが跳んだ。

 

『島津と速水の刀が交わる! 体格差によるハンデなど全く感じさせない速水、島津の刀を……押し返した!』

 

 サポート係はただの盛り上げ役。速水さんの言っていたとおり、事実、会場も彼女たちの戦闘にヒートアップしているようだった。おれもがんばらないと。
 視線を移動させて沢木くんを見遣る。彼は先の余裕などすっかり失せさせ、すさまじい殺陣を繰り広げる速水さんたちに釘付けになっていた。手にある長柄の棒も今はだらしなくただ地面へ向けているだけ。今ならなにか出来るかもしれない。
 速水さんたちの戦う方向とは逆に走り、沢木くんに向かっておれはナイフを構えた。

 

『先制に出たのは鷹羽だ! 沢木との距離を詰めながら得物を構える!』

 

 実況の声にハッとし、沢木くんはようやくおれのほうへ向いた。彼の首から提がるワタツミ章が、少しだけ浮いた。瞬時におれは勢いをつけて右手のナイフを放った。身構えた沢木くんの腕にあたり、一本は床へ滑り落ちる。もう一本は彼が長柄棒で弾いた。
 沢木くんの顔に苛立ちの模様が浮かんだ。脚が動き、おれのほうへ走ってくる。まずい。怖い。足の速さは、さすがにカラテをやっていたからか速く感じられた。長柄棒を構え、おれへ向かってくる彼に、おれの足は止まってしまった。

 

『沢木が鷹羽へ迫る! 遠距離型武器を所持する鷹羽に近距離戦は不利か!?』

 

 ポケットから木製ナイフを取り出し、おれは必死のまま沢木くんへナイフを投げた。けれど、確かにナイフは沢木くんのほうへ正確に飛んでいくのだが、無情のまま彼に弾き飛ばされたりして、ワタツミ章にはかすりもしない。そうしている間にも、沢木くんは徐々に迫ってくる。おれは焦りを覚え、ポケットから次のナイフを取り出すが、一本取り落とした。耳鳴りがするほどの歓声の中では、そのナイフの落ちる音はかき消された。

 

『鷹羽の投擲は寸分の狂いなく沢木へ向かっていくが、決め手に一歩及ばない!』

 

 実況の声がやかましく響く。落ちたナイフから意識を逸らして前方へ顔をあげると、すぐそこに沢木くんがいた。

 

『沢木、いま鷹羽へ一撃を、薙いだ!』

 

 長柄棒がおれの胸元へとなぎ払われる。咄嗟にワタツミ章を隠し、思わず息を止めて後ろへ下がる。ギリ、当たらなかった。おれは彼の薙いだその一瞬のとき、彼の首からさがるワタツミ章が浮くのがみえた。今度こそ、もしかしたら、この至近距離なら……。おれはポケットからナイフを数本一気に手に取り、自分でも驚くほどの大声をあげながら、それをめちゃくちゃに投げた。

 

 けたたましい音が鳴り響き、あれだけ騒がしかった会場が波打ちしずまった。おれは荒くなった息を整えながら音の正体を探した。音は、紛れもなく沢木くんの方向から聞こえる。

 

「これ、くそっ、うるせ……」

 

 沢木くんは首から提げていたワタツミ章を取り、叩きつけるように床へ投げる。ワタツミ章から音が鳴っていた。今しがたまで黙っていた実況が再び喋り始める。

 

『――なんてこった。鷹羽が沢木の首を獲りました! 防いだと思われたナイフは腕をすり抜けてワタツミ章に触れたものと思われます! 今大会初の″海神の目覚め″が響きわたりました!』

 

 実況が叫ぶと、会場は歓喜の渦に包まれた。おれは左手に持っていたナイフを取り落としたけど、雑音の嵐の中、ナイフは無音のまま床に跳ねた。ありえない。信じられない。また、幸運な偶然が起きた。むしろ奇跡なんじゃないだろうか。
 おれの肩を速水さんが叩き、彼女は目を輝かせて満面の笑みで、

 

「おめでとう!」

 

 そう叫んだ。普通の会話はもはや消されてしまうほどの中、こんな大声でもおれはかろうじて聞こえた程度だった。
 妙な心地のなかで速水さんに背中を押され、興奮冷めやらぬ会場から退場すると、体育館の外にいた白ジャージのひとたちから、こぞって詰め寄られた。おめでとうばかりではなく、何の部活所属なのかとか、習い事は何をやっていたのかとか、いろいろな事を聞かれた。何も言えず戸惑うおれを救い出したのは、背の高い女生徒だった。――彼女の着用するジャージの腰部分、右寄りの辺りには、オレンジと青色の星が一つずつ並ぶ徽章があった。闘人生だ。

 

「疲れてるだろうから休ませてあげようよ。質問は大会後でも問題ないでしょ。確定してるんだから。」

 

 他のひとたちにそれだけ言い残し、彼女はおれの手首をひいて体育館から離れて行く。今だに現実なのかどうかの自覚もないままのおれに、彼女は振り向いて笑顔になった。

 

「やっぱり、原石だったね。推薦者としてはこれ以上にない優越感を覚えてるよ。素晴らしい君の能力に感謝。」

 

 うれしそうな口振りだ。いや、実際にとても喜んでいるように思われた。推薦者とは、いったいなんの話なのか。おれは覚えず少し考え込む。
 自動販売機のある場所に来て、彼女はリンゴジュースを買っていた。

 

「鷹羽くんは何飲みたい?」

 

 訊ねられ、おれは驚いた。彼女は祝勝だからと、奢ってくれるらしい。まだ名も知らないようなひとから奢ってもらうなんておこがましい。おれはそう言おうとして、そういえばと聞きたいことを口にした。

 

「あの。あなたは、協議委員のひとなんですか。」
「あれ。言ってなかったっけ。これは失礼しました。」

 

 きょとんとしたのち、彼女は口許に手をやりすぐに頭を下げた。

 

「私は柏木もなみ。木更津アオイって知ってるでしょ、あれの親友。」

 

 木更津アオイさんと言うと、今朝おれに大会参加の通達をしてくれたひとだ。でも、この人はおれとなんの接点も縁もない。過去に会った覚えもない。ただ、さっきこの人は『推薦者』だとか言っていた。その言葉になんだか引っかかりを感じ、おれは柏木さんを見た。

 

「名前は分かりましたけど、あなたから奢られる理由が分かりません。」
「うん。だってまだ私、言ってないし。実はだね、私があなたを今大会に参戦させようと推薦したの。だから、間接的にあなたと私は関わってるわけ。」

 

 明るい表情の柏木さんを、おれは黙って眺めていた。推薦したって……おれを? こんなしがない一般生徒を?
 おれがなにか言う前に、柏木さんはさらりと述べた。

 

「本当は他言しないほうがいいんだけど、昨日の大会はいわゆる審査会、みたいなものでね。本来の大会は最初から今日の予定だったの。昨日の参加者の中から、腕の立ちそうな優秀な一般生徒を探し、そして今日の大会で実力を見る……。昨日は私含め何人かの闘人生が審査員として成り行きを見ていたのだけど、なかなかどうして、一般生徒にもやっぱり隠れた逸材がそれなりに居た。」

 

 リンゴジュースを開け、柏木さんは一口飲んだ。今大会の裏で何が企まれていて、委員会が何を思ってあんな内容にしたのかを如実に理解し、おれはひたすら驚いた。すべてに納得がいく。
 缶を両手で握り、柏木さんは地面を眺める。

 

「ここ数ヶ月のうちにね、闘人生の数がさっぱり減少してきているんだ。三年の先輩方が卒業したからっていう理由もあるけど、やっぱり宣伝し足りないっていう理由もたぶん、ある。もちろん闘人生の特典に惹かれて闘人入りする子もいる。でも、色々と危険があるから、二ヶ月と保たないで辞めてしまうんだ。」

 

 苦笑いを漏らし、柏木さんは一息吐いた。
 春から夏へ変わることが肌で感じられるようだ。風は冷たくも暖かくもなく、先ほどの興奮も冷めてきた。
 そうして少し冷静になったおれは考える。

 ――闘人生は、決してその絶対数が多くない。おれの知っているだけでも、闘人入りしたのにすぐに辞める人がいくらかいた。危険だし、いろいろとルールもある。そういった煩わしい制限に従えないひとは、みんな辞めていくのだ。おれのルームメイトの五木くんも、腕や指に包帯を巻いているところをたびたび見かける。怪我は必至、最悪、命さえ落としかねない、そんな特別な生徒。なぜそんなものがこの学校に、いや、この日本に存在しているのか、おれはいまだに理解できなかった。けれど、おれが理解していなくても、実際に存在しているし、実力のある人などはそれをあてに生活し、また進学先や就職先を手に掴んでいる。ただ、それは勝者にのみ与えられる特典だけれど。
 おれが眺める中で柏木さんは続ける。

 

「このトーナメントの本来の目的は、優勝者以外にも素晴らしい才能を秘めた生徒を発掘して、彼らを無条件に闘人生入りさせることなんだ。それでだね。さっきの上手い立ち回りを見せてくれた鷹羽くんは確定したの。審査通過を経て闘人生入りがね。」

 

 柏木さんは次いで「おめでとう」を述べた。おれは驚くほど冷静で、しかしぼんやりと、どこか夢心地で居た。
 そうか。おれも例の秀才な親戚と同じ舞台に上がれるのか。たかが投擲技術がちょっとあるくらいで、こんなにちやほやされるなんて。そんな皮肉っぽいことを考えていながらも、心のどこかでは嬉しい気持ちもある気がした。
 ただ自ら志願して闘人生になるのではなく、こうしてスカウトされて闘人生になるということは、すなわち一般生徒より優れていると公認されること。階級があがるとともにその待遇もまた良くなり、特一等という階級が最高位で、学費全額免除・卒業後の進路保証などの特典もある。まさに夢のような地位。しかしそこにたどり着くまでには多難がある。今現在で特一等生は闘人の中でもわずか1割に満たない。優秀な親戚……鷲羽も、一時期は特一等生だったが、今は一等生に降格している。


 柏木さんの説明を聞きながら、おれは思惟する。闘人入りしたら、おれは調子にのってしまうのではないだろうか。そうしてまた、友人から呆れられてしまうのでは……。
 おれの不安を知らぬまま、柏木さんは時計を確認して立ち上がった。

 

「……っと。ごめん、話が長くなったね。次の試合が迫ってるから、戻ろう。」

 

 戻る途中で柏木さんとはわかれ、おれは一人で体育館裏へ向かう。いまだ、夢心地だった。自分でも気づかなかった投擲技術、偶然とは言いがたいなにかの才能。しかし、それらを素直に喜ぶ気にならないのは、やはり、自分自身の性情を理解しているからか。きっと、みんなより優位で特別な生徒なのだと自惚れることになる。そうして、今度こそ、友人が居なくなる。
 おれは館内のざわめきが霞の彼方から聞こえるように感じた。

 

『闘人入りは確定してるけど、この後の試合もがんばってね。』

 

 別れ際の柏木さんの言葉を反芻する。闘人入りは確定していても、強制されるわけではないだろう。一応、彼らに認められたということは、おれはそれなりに凄いのかもしれない。それを、大勢の人に知ってもらえたなら、今回、この大会に出た意味は十二分にあった。だから、もう優勝はしなくても、できなくても大丈夫。きっとクラスのみんなも許してくれる。……自惚れになることを恐れたおれは、また、そんな弱気を心に思った。
 体育館裏につく前に、おれは気持ちを切り替えた。この試合はトーナメント式なので、次にあたるのは前回の試合の勝者。少なくとも実力のある生徒ということ。まあ、きっと次で敗退することになるだろう。なんて、おれは開き直りながら自分自身で嘲笑した。
 不意に向こうから速水さんが駆けてきた。なにやら、少しだけ興奮している。

 

「鷹羽くん、柏木先輩と話をしてきたんだね。」

 

 速水さんが来て、「いいなぁ」と述べた。曰く、彼女は柏木さんのファンらしく、今回彼女のおめがねに叶ったおれを羨ましく思っていたらしい。次いで、おれは速水さんから柏木さんが団体戦一等生であることを初めて聞いた。彼女が腰につけていた徽章は、その地位のものだったのか。まさかそんな凄い人に見初められるとは思わず、おれは内心で恐縮した。

 

「さっきの試合、かなり良かったよ。今回も同じように立ち回ってね。」

 

 彼女からの激励に頷くも、おれはあまり乗り気になれなかった。きっと、間違いなく敗退するはず。この自信のなさは、結局、大会に出ても変わらなかった。人知れず、なんとなく落ち込む。どうすれば、この弱気で内気な性格を変えられるのか。誰に聞いても、誰にも分からないだろうことを考えながら、おれは体育館内へと向かった。

 

 

 

第4話

 

 

 

 

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