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ワタツミの騎士 第4話

ワタツミの騎士 第四話 『過去、涙の理由』 20090221~ 修正20110807 20110808(最終更新20180605)

 

 

『――決しました! 勝者は鷹羽白刃、三勝を獲得! 決勝進出です!』

 

 試合は進み、信じられない展開となった。あがった息を吐き、周囲を見渡す。おれの視界いっぱいに、観客が拍手をする様子が映った。運が良いとか、偶然とか、もはやそんな言葉では片づけられない。なにより、そんな事を言ったら、今まで相手をしてくれた生徒たちに失礼だ。――おれは、自分でも気づかないほどに強かったのかもしれない。投擲のみだけれど、こんな特技があったなんて、思わなかった。


 第二試合の前、おれは自分でもイラつくほどの弱気で、この試合の結果をいとも容易く想像していた。闘人入りを闘人協議委員会のひとに認められただけでも、大会へ出た意義があった。だから、以降の試合では適当に立ち回って、適当に敗退して、退場しておけばいい。そんなふうに思っていたのに。
 気づけば次は決勝。おれは会場に残り、まだ見ぬ相手が来るのを待っている。なにを間違えたのか。なにが起きたのか。試合をする前は、適当にと、思っていたはず。けれど、いざ対戦相手を前にしてみると――大勢の観客のいる前に出てみると――本気も出さずに、ただ背を向けて逃げ回ったり、無残に敗退していくなんて、どうにも出来なかった。もともと、目だったり格好いい真似なんて出来やしなかったけれど、大衆の前で格好悪いところを見せるのは、やっぱり、嫌だった。だから、おれなりに全力でがんばって立ち回ってみたら、ここまできていた。
 人の目もだいぶ慣れてきて、おれの弱気も少しずつ、払拭できてきたころ。次の対戦相手が来たらしい。なんとなく予想はしていたが、入場した途端に観客の興奮も最高潮に達した。

 

『ミステリアスな雰囲気を漂わせる、今大会最注目の生徒、コウが入場しました!』

 

 やはり、狐の面の子だった。彼女は怯むことなく前進し、さも当たり前のように得物として長柄の棒を手にした。おれに向くと会釈をし、彼女は立ち位置へと歩を進めた。まるで、周囲にいる観客など、彼女の視界にも意識のなかにも入っていないように、じっとおれを見つめてくる。おれは彼女と睨みあいをしながら、思惟する。彼女の実力は今まで散々見せつけられている。きっと、そう簡単に勝たせてはくれまい。いや、彼女に勝てる自信は皆目、なかった。
 脳内を過ぎるのは、先ほど速水さんから言われた言葉。

 

『決勝ではサポート係はつかないから、完全個人戦形式になるんだ。ヤバくなったらすぐ棄権して。気負わず、気楽にね。』

 

 そう言い残し開始前に速水さんはおれの元から立ち去った。だから、フィールドにはおれと彼女しか居ない。外野には複数の白ジャージの人が待機し、おれたちを見守っている。

 

『さあ、いよいよ決戦の時がやってきました。顔を隠し、素性は一切不明の生徒、コウ! 長柄棒による猛攻はまさに虎のよう! 対する鷹羽白刃の投擲は、獲物に一直線に飛びかかる、まさに鷹! この試合どうなるか誰にも予想出来ません!』

 

 盛り上がる会場の中心に立ち、おれはまた夢心地な気分になった。大舞台の主役になれた気がして、少しだけ嬉しかった。どうしたって弱気だったおれが、こんなふうに人前に出て、しかも注目を集めるだなんて。今なお信じられない。

 

『間もなく試合開始を告げようとしています。審判がセンターサークルへ向かい、カウント10――』

 

 審判らしき人が白ジャージ集団から一人、進み出た。あれは、確か昨日のドッジボールのときにルール説明をしてくれた人だ。けれど、彼の右胸元には金と銀の星が煌く徽章がある。確か昨日はつけていなかったのに。闘人生らしいが、もしかして徽章をつけ忘れていたのだろうか。なんて思っているうちにその人が、おれと狐面の子――実況ではコウさんと言っていた――の間へと進み出た。コウさんが構えを整える。おれもナイフを握り直し、待った。

 

『――開始!』

 

 審判が瞬く間に消え、コウさんが突進してきた。その足の速さは並大抵ではない。一瞬、おれは命の危機さえ感じた。

 

『コウの猛攻が鷹羽を圧倒する! 鷹羽、身のこなしは悪くないが、コウにおされている!』

 

 長い棒をこんなにも華麗に振り回せるものなのか? 最初の試合で闘った沢木くんとは違い、もっと素早く、もっと激しかった。全くブレない太刀筋におれは避けるので精一杯。おれの首からさがるワタツミ章を的確に狙う彼女は、隙を全く見せない。一向に流れが変わらない、変えられない。完全にコウさんの攻撃の前に圧倒されていた。

 

『遠距離戦型の鷹羽には相性が悪かったか、コウに手も足も出ません!』

 

 実況の声にさえ、おれは気にする余裕がなくなっていた。動きが早すぎてついていけない。しかし気を緩めれば、一発で狩られる……。どうしよう。もう必死すぎて自分でも混乱してきた。ここまで来られただけ、すごいことだ。決勝進出なんて、普通は出来ないじゃないか。普段からあまり目立たないおれが、いまや全校生徒の注目を浴びている。それだけでも、もういいじゃないか。これ以上やったって、彼女になんか勝てないんだ。
 ネガティブな感情がおれのなかで弾ける。と、同時に腹に激痛を覚えて空中に浮く感覚を意識する。コウさんに蹴っ飛ばされたのだ。息が詰まり、けれど、おれは脚を踏ん張った。転倒せず、着地し、涙で滲む視界にコウさんを捉える。彼女はまたおれへ突進してきた。痛い。蹴られた腹が痛い。もういやだ。早く終わらせたい。……でも、負けたくない。負けて終わるのはいやだ。負けてしまったら、今度こそ、明日から笑われて過ごすことになるかもしれない。
 そんなわけの分からない複雑な思考回路のなかでおれは、一つの反撃手段を思い浮かべた。
 左手に構えていたナイフを一本にして、おれはイチかバチかにかけた。

 

『おぉ? 鷹羽が反撃に出るか!?』

 

 彼女の長柄をかろうじて受け止め、弾く。動くと腹がずきずきと痛んだ。もしかして肋骨でも折られたのではという不安が一瞬浮かんだが、そんな気持ちも痛みもつかの間忘れ、後ろへ跳び距離を取る彼女に、おれはナイフを再び構え直した。


 しかし、それは刹那に起きた。

 

『な。なんと、何が起きたか思考が追いつかないぞ。コウ、鷹羽を追いつめた!』

 

 腹だけでなく、こんどは背に鈍い痛みを感じた。その矢先に、天井が見えた。そして視線の先にコウさんが姿を見せた。長柄を握り、今にもおれの心臓に突き立てようとしている。顔が窺えないのに、彼女の眼には殺意が宿っているように見えた。死という概念が脳裏をかすめる。

 

「魔法者だ!」

 

 外野からだろうか、叫び声があがった。複数の人の気配が動くのを感じた。と、コウさんが何かに気づいたように余所を向いた。同時に、彼女の被る狐面が傾く。

 

『あっ。コウの面が外れました! なんと女子生徒!?』

 

 ガンと鈍い音が響き、床に面が落ちた。雑音が一瞬にして消え去り、会場に静寂が訪れる。誰一人、動かない。そんな中で、コウさんは呆然と辺りを見回し、瞬時に立ち上がった。

 

「う、あぁ……」

 

 怯えるように顔を強ばらせた彼女は、駆けて体育館から出て行った。会場のざわめきが少しずつ広がっていく。やんでいた実況が再開する。

 

『……えーと。コウ、棄権により、優勝は鷹羽白刃!』

 

 実況がそう叫ぶも、観客は歓声をあげずにざわざわとしていた。おれもなんだかぼんやりしてしまって、何が起きたのか事態の把握ができなかった。なにが起きたんだ。おれが周囲を見ても、みんな分からないように隣同士で話し合ったり、白ジャージの人たちも、なにか深刻な顔でこそこそとやっているのが見えた。
 実況のほうへ一人の生徒が走っていく。白ジャージを着たその人が実況者に紙を渡した。それに目を通しながら実況が口を開く。

 

『えぇ。ただいま来た分析班の鑑定によりますと、コウは『魔法』により鷹羽を追いつめたが、今試合の主審を勤めた生徒会のサイトウさんが放った『遠磁(えんじ)』により、面の紐が切れたとのこと。なお、コウは自ら武器を捨てる『棄権意思』を示したため、棄権と判断し、優勝は鷹羽白刃で確定しました!』

 

 戸惑う実況を聞きながら、おれは速水さんに引率され会場から出た。なにがなんだか今も分からない。ただ、おれは彼女に勝ったということだけ。けれど、喜びは全く感じなかった。
 外にいた白ジャージの人たちが、口々に話をしている。

 

「彼女、魔法者だったのね。」
「だが今大会ではあれが初使用だったらしい。」
「でもいいのかねェ。魔法使っちゃったよ。」

 

 もちろん話題は彼女のことだ。おれは『魔法者』という単語を聞き、なにかよく分からない感情を抱く。
 『魔法者』は、今でこそ社会的地位の確立がされているが、昔は忌み嫌われる存在だった。理由は定かではない。けれど、恐らくはその『魔法』に対する恐怖と羨望によるものだと言われている。闘人同士の合戦の時だけは例外ではあるが、学園では原則魔法の使用は禁止されている。彼女はその校則違反に抵触するかしないかで、処罰の有無が下されるのだろう。疑似とはいえ今大会は『闘人』と謳っているし、ルールにも「魔法使用禁止」は書かれてなかった(というよりは魔法者は自身が魔法者であることを知られるのを恐れるため、人前では滅多に魔法を使わないので敢えて書かなかったのかもしれない)。処罰などはあり得ないだろうとは思うが、断定はできない。

 

「優勝おめでとう、鷹羽くん。」

 

 柏木さんが木更津さんを伴っておれの元へと来た。その顔は満面の笑み。歯を見せながら、彼女は冗談めかして木更津さんへ振り向く。

 

「さすが私、先見の力があるのかもね。そー思わない?」
「自分で言うか。まあ確かに見る目はあったかもしれないけど。でも本当、すごいね、君。おめでとう。」

 

 柏木さんに呆れつつ、木更津さんはおれに笑みを手向ける。素直な性格らしい木更津さんは語った。最初はおれが審査通過することに多少の驚きを感じていたのだと。いや、当然の反応だ。謝る木更津さんを宥め、おれは周囲を見た。

 

「あの子はどこに行ったんですか?」
「コウさんなら、生徒会の者が責任をもって連行しました。」
「人聞きが悪いわ。彼女もその実力が認められたので、闘人入りが確定しているの。ただ、途中棄権をしたから今は別室で事情を聞かれているはず。」

 

 言葉を区切り、柏木さんがふと視線を移した。つられておれもそちらを見る。先刻の決勝戦で審判を勤めてくれていた白ジャージの人がいた。短い黒髪に人なつこい笑顔をしている。視線を少し下へ移動させれば、陽の下で金と銀の星がきらりと瞬いた。

 

「お話中悪いね。鷹羽白刃くん、これから生徒会室へ来てくれるかい?」
「あれ。サイトウさんが直々に引率ですか?」
「まさか。引率担当は推薦者がする決まりだろう。任せたよ、柏木。」

 

 それだけを言うと『サイトウさん』は立ち去った。頭を軽く掻いて、柏木さんは「行こうか」と歩きだした。
 生徒会室へ連れていかれるらしいが、もちろん、おれは初めて向かう場所。確か生徒会長は楠木という女生徒。高等部の校舎4階にある生徒会室へはまだ距離がある。廊下を歩いているとき、柏木さんと木更津さんはおれより数歩前を並んで歩き、楽しげな談笑をしている。会話の内容は、思わずおれも小さく笑ってしまうくらい下らないもの。柏木さんの冗談に、木更津さんが冷静な突っ込みを入れているのだ。おれが笑うと、二人はおれへ振り向いて、嬉しげに笑顔を作る。もしかして、二人はおれの緊張をほぐそうとしてくれているのだろうか。真意はおれには分からなかったが、それでも、二人の気遣いにおれは嬉しさを感じた。
 そうして、高等部4階、生徒会室の前まで辿り着く。柏木さんと木更津さんがノックと「失礼します」を言い、扉を開けた。おれも緊張しながら後につづく。

 

「ようこそ。鷹羽白刃さん。ご承知おきとは思いますが、わたしは生徒会長を勤めています。楠木妃蜂(クスノキ キハチ)です。」

 

 初めて踏み入った生徒会室。第一印象は、清潔感のある白い部屋。部屋の壁際には整理整頓された本棚。両並びの長机とは別に、最奥には一人分の席が設けられていて、そこに着席していたのは、生徒会長だった。混血だという生徒会長の楠木さんは、本当にきれいな顔立ちをしている。視線をずらし、彼女の肩を見遣ると、金と銀の星が瞬く。肩章のそれは、闘人生の証。月に一度、校内配布される新聞の表紙には、よく彼女の名と顔写真が掲載されていることをおれは知っていた。彼女は闘人生のなかでも最上位で、校内で最も模範的な生徒として全校生徒に知られている。おれは校内新聞をあまり熟読しないから詳しくないが、それでも、そんなおれでも彼女の顔と名は認知していた。それだけの有名人が目の前にいるのだから、おれはいやが上にもテンションが高まった。
 彼女のそばに立つ女生徒は微笑をたたえている。その表情のまま、歓迎の言葉をくれた。

 

「私は生徒会長付きの沖田と申します。先刻のあなたの勇姿、心が沸き立つほどに楽しませてもらいました。素晴らしい合戦でした。」

 

 褒められ慣れていないためになんとなく照れくさくなった。それを察したように二人は微笑を漏らした。
 おもむろに沖田さんが机上にあった紙を手に取り、それをおれの元まで持ってきた。紙の最上部には『闘人生登録書』とあった。

 

「今回の大会で、あなたの実力は確かなものだと我々は認めました。よって、あなたに意思があるならば闘人生になってもらいたいと思っています。」

 

 沖田さんは真剣な目をおれに向けている。どきどきと心臓が鳴り、おれは緊張していることに気づいた。この紙に署名すれば、一般生徒ではなく闘人生になれる。あの秀才の親戚と同じ舞台へ上がれる。迷う必要は全くなかった。
 ペンを借りて、おれは署名欄を眺めた。もしも嫌になれば、そのときはすぐに辞退してしまえばいい。格好悪いかもしれないけれど、別に誰かから咎められることもない。気楽な気持ちでいたらいい……。
 ペンの先を紙につけた矢先、ノックの音がした。沖田さんが入るよう促すと、扉が開いた。おれは、あっと思った。

 

「遅くなりました。宮本光(ミヤモト ヒカル)を連れて参りました。」
「ああ。ヤモちゃん、ありがとう。」

 

 生徒会長は優しい声色で、コウさんを引率してきたらしい女子生徒に微笑みかけた。宮本……ひかる? おれは聞き覚えのない人名に口をつぐんだ。入室してからずっと機嫌の悪さを隠さない”コウさん”は、一瞬だけおれと目があったがすぐに逸らされた。

 

「宮本光さん。」
「違う。私はコウだ。宮本コウ。」

 

 苛立った声を出し、コウさんは生徒会長を睨む。見ているこちらが冷や冷やとしてしまう。

 

「生徒名簿には、ヒカルとフリガナがあるのだけど……」
「コウが正しい読み方だ。何度も言わせるな。」

 

 気丈に振る舞うが、おれの目には彼女が無理に強気になっているように見えた。頬を赤くさせて、早く用事を済ませたいと目が訴えているようだ。

 

「そう。では、宮本コウさん。あなたに意思があるならば、闘人生になってみる気はない?」
「……闘人? 私には無理。他をあたれ。」
「なぜ? あなたはとても素晴らしい腕を持つ。美しかったわ。あなたの槍さばき。」

 

 生徒会長が褒めの言葉を口にすると、コウさんは目に見えて動揺した。耳まで真っ赤にさせて半歩退く。もしかして、この子は人とのコミュニケーションをとるのが苦手なのだろうか。そんな疑問が浮かんだ。

 

「あなたなら、すぐに昇格して一等生入りも容易かもしれない。私は、あなたの実力に惚れ込んでいるのよ。宮本コウさん。」
「……私、は。」

 

 己の左腕を強く握り、コウさんは俯く。黙り込んだ彼女の赤い頬に水滴が伝った。泣いている、のか?

 

「あ、ちょっと、宮本さん!」

 

 背を向けたと思ったら、コウさんは唐突に逃げ出した。彼女を引率してきた女子生徒はコウさんを捕まえそこない、その手は空中をかいた。

 

「って鷹羽さん!?」

 

 おれは無意識のうちに体が動いていた。自分でもどうしてか、分からなかった。なんとなくコウさんの様子が気になっただけだった。
 校舎裏の桜の大木の下にコウさんはしゃがんでいた。膝を抱えて顔を埋めている。肩がふるえているのは泣いているからだろう。声をかけるのは躊躇われたが、おれは声を発した。

 

「どうして泣いてるんだ?」

 

 無神経な問いかけかただと、言った後に自分で気づいた。返事はなかった。ただ彼女は静かに、息を殺すように泣いていた。なんだか、一年前の自分を見ているような気分だ。胸が少しだけざわついた。

 

「おれ、去年の今頃かな。君みたいにいつも下向いて、目立たないようにしてた。」

 

 なにを話し出すのか、おれ自身が最も驚いていた。いまだに顔をあげないコウさんに構わず、過去のことを思い出しながらおれは足下を眺めた。

 

「おれの親戚さ、闘人生一等生なんだ。だから、あいつと比べられたくなくて、いつも日陰を歩いてた。」

 

 息を吐いて、その場に腰をおろす。コウさんは深い息を吐いて、少しだけ顔をあげてこちらを見てきた。目も顔も真っ赤だった。おれが笑いかけると、彼女は顔をそむけた。

 

「なんか、君を見てると、昔のおれを見てるような気がしてしまうんだよ。自信がなくて、人目が怖くて……今でこそ普通に話せるけど、昔は人見知りがヒドかったよ。」

 

 苦笑いを漏らすと、コウさんと目があった。彼女は相変わらず何も言わなかったが、だいぶ落ち着いたようだ。

 

「コウさんは、闘人生向きの実力があるんだから、もっと自信を持っていいよ。おれなんかより、よっぽど素敵だから。」

 

 瞠目して、コウさんはまた目を逸らした。女の子らしい可愛い反応だと正直に思った。

 

「戦闘のときは格好いいけど、やっぱり女の子だね。」

 

 コウさんの指先が僅かに動き、彼女は俯いた。ぎゅうと服を握り、また涙をこぼした。驚いたおれが何か言う前に、彼女は震えた声を絞り出すように、

 

「嫌だ。私、嫌なんだ。」

 

 ぼろぼろと泣き、コウさんは頭を抱えた。なにか気に障ることを言ってしまったのだろうか。

 

「ごめ……」
「私は、女なんか、なりたくなかった。」

 

 おれの謝罪を遮り、コウさんはぽつりぽつりと話してくれた。

 コウさんの実家は古い武術道場で、コウさんは男として育てられたこと。のちに弟が生まれたが、その子は魔法者特有の障害により体が不自由で、結局コウさんが道場を継ぐ他に選択肢はなかったこと。それによってか、幼い頃から自分の性に違和感を覚え、そのせいで人間関係がうまく築けなかったこと……。
 話している間中、コウさんは何度も息を詰まらせていた。思い出したくない過去だったのだろうと容易に察せた。

 

「ごめん。」

 

 しばらくしてから、コウさんは息を整えて謝罪を口にしてきた。おれは首を横に振り、コウさんをまっすぐに見た。

 

「おれなんかに、胸の内をあかしてくれて、むしろ嬉しいよ。少しは、気が楽になった?」
「うん。こんなこと、他人に話したことなかったから。少しだけ……」
「そうか。良かった。おれも、悩みとか他人に言えないタチだから、君に話しを聞いてもらえてスッキリしたよ。ありがとう。」

 

 笑いかけると、コウさんも少しだけ表情を和らげた。彼女はおれと似ているから、たぶん気が合いやすいのかもしれない。下手したら、野木よりも話しやすいと思った。

 

「おれ、自分にもっと自信をつけたいから、闘人になるよ。唯一の特技が活かせるのって、たぶんその道しかないからさ。」

 

 それに、そうすれば今以上に得られるものが増える気がするんだ。
 そう言うと、コウさんは皮肉っぽく笑った。

 

「でも、あんたは遠距離戦向きだろ。個人戦者は普通、近接戦の得意な奴がなる。」
「あー。そうだ……致命的だ。」

 

 指摘され、初めて気づかされた。遠距離戦向きの人は、団体戦者として仲間のサポートをしたほうがいい。というか、そういう道しかない。
 困った。どうしようか。そのように悩んだ刹那に、コウさんはぼやいた。

 

「……私は、自分がなんなのかを、確立したい。本当の私を見つけたい。だから、闘人に、なる。」

 

 つかの間、コウさんは何か躊躇うように口を閉じた。おれは彼女を見守ることに徹する。

 

「だから……私と、団体戦者として、闘人生にならないか?」

 

 また泣きそうな顔をし、コウさんは俯いた。断る理由なんて、あるわけない。嬉しかった。

 

「もちろん。おれで良ければ。」
「あんただからいいんだ。私を受け入れてくれた。……名前、なんだったっけ。」

 

 そういえばまだ自己紹介が済んでいなかったか。今さらな気もしたが、名前を知っておいてもらわないと今後困るだろう。

 

「鷹羽白刃。高等部、昼間部の一年。」
「私は、宮本……コウ。中等部、昼間部の、三年。」
「よろしく。」

 

 握手を求めたら、少し戸惑い気味だったけれどちゃんと握り返してくれた。


 団体戦者三等生として、おれたちは歩き始めた。
 闘人生の命、そして証となる『ワタツミ章』は、ずしりと重たく、おれは首からさがるそれの重量的な意味以外の『重み』に、なんとなくの緊張感を覚えた。


 コウさんが泣き止んだあと、おれは彼女と一緒に生徒会長へ闘人入りの意思を示し、同時にこれ≪ワタツミ章≫を渡された。主将となるに相応しいのは、本来ならば近接戦の得意なコウさんが妥当であるはずなのだけど、彼女はそれを断って、おれに主将を努めるよう言ってきた。なんの意図をもっておれを主将にしたのか、彼女は明確に答えてくれなかったが、たぶん、上級生であり、男であるおれの顔をたててくれたのだろうと思った。――男女同士で組んでいる闘人は少なくはないが、いずれの闘人生たちも、男子生徒が主将を担う場合が多いことを知っていた。以前、おれのルームメイトの五木(イツキ)くんがクラスでそのような話をしているのを聞いたことがあったのだ。
 首からさがる『ワタツミ章』を眺めていると、生徒会長の楠木さんがひとつ、咳払いをした。

 

「鷹羽さん、そして宮本さん。あなたがたは今、このときから闘人生としての学園生活を歩み始めることとなります。慌てることも、焦ることもありません。まずは、同等の闘人生たちと闘い、闘人とはどういうものであるのか、戦闘の仕方などに慣れていくことから始めましょう。」

 

 楠木さんがそういうと、おもむろに沖田さんがおれたちに何かを手渡した。『赤三連星』の徽章。沖田さんは「団体戦三等生の三連赤星です」と教えてくれた。闘人生は、そのレベルごとに与えられる星の数と色が違うのだそうだ。そういえば、おれを推薦してくれた柏木さんはオレンジ色と青色の二つ星をつけていたし、今おれの前にいる生徒会長は、金色と銀色の二つ星を肩章としてつけている。闘人がこの徽章を身につけることで、他の闘人生たちへの紹介にもなるのだ。同等であるか上位か下位か、徽章を見れば判断できるようになり、戦闘も間違いなく行うことができる。
 与えられた徽章は、おれは肩付近に取り付け、コウさんは左腕の袖辺りに取り付けていた。位置的に下すぎるように思われるが、遠目からでも確認が可能な場所であれば、どこへ装着しても良いらしい。
 それから、楠木さんに代わり沖田さんが闘人のルール等を説明してくれた。『戦闘宣誓』のこと、『休戦期間』のこと、主将交代の際の細かな決まりごと、武器類について……
 武器についての説明を聞き終わった段階で、おれはそういえばと思い質問をした。

 

「得物とかまだ所持していないんですが、どこで調達したらいいでしょうか?」

 

 きっとおれだけじゃなく、コウさんだって得物など持っていない。ちらりと彼女を見ても、あまり表情には出ていないが、俯き加減でどこか不安そうな様子をしていた。
 沖田さんが何枚かの書類を、おれとコウさんへ渡しながら口を開く。

 

「闘人の大半のかたは、リストに示してある専門店で調達や調整をしているようです。なお、武器類は登録制となっておりますので、未登録の武器使用による戦闘はいかなる場合でも、勝敗の有無にかかわらず罰則対象となりますので、ご承知おきください。」

 

 渡された紙の三枚目に、武器類関連の店の情報が記されてある。刃物系のお店、銃器系のお店、変わり種の武器を専門とするお店など、8店舗ほどが掲載されてあり、いずれも校内のネット回線を経由しての売買が可能となっていた。店舗の住所もこの学園から交通機関を乗り継いでいける場所であるから、実際にお店へ足を運んでみるのもいいかもしれない。

 生徒会室を後にしたおれは、コウさんと廊下を歩いていた。擬似闘人大会が終わったあとの休日の校舎内は、とても静かだった。
 不意に、コウさんが小声を発した。

 

「武器、作りにいくか?」

 

 彼女からの誘いに、おれは少し驚いた。闘人として出発して、きっと早く闘いたくて仕方ないのかもしれない。あんまり変わることがない彼女の表情からはそれ以上の感情は読み取れないものの、早めに武器を所持したほうが何かと捗るかもしれない。
 校内でネット回線が繋がるところといえば、やはりPCルームしかない。今日は日曜だから施錠されているかもと思っていたが、意外なことに、教室は開放されていた。中へ立ち入ると、そこにはちらほらと生徒の姿があった。そして、そのいずれの生徒たちも闘人の証である徽章を制服やジャージのどこかしらにつけていた。
 開いていた席を見つけてそこへ座ると、金色と銀色の二つ星徽章を装着した女子生徒がおれたちのほうへと歩いてきた。人懐こそうな微笑をたたえるその顔立ちは整っており、しかし病的なまでに青白い肌の色をしている。なにより、その首からさがるのは『ワタツミ章』。隣に座るコウさんが、少しだけ身構えた。

 

「あなたたち、さっきの擬似闘人大会で闘ってた人たちでしょう?」

 

 どことなく、物語のお嬢様的な喋り方だ。別段珍しいわけでも、嫌味っぽい言い方でもなかったが、その好奇心さの滲み出た調子の声に、おれはなんとなく、違和感を覚える。
 いや、それよりも、彼女の徽章の色に、おれははっとした。生徒会長と同じ色だ。まだ星の色や数について調べていないから確信は持てないが、きっと上位の闘人なのだということは察しがつく。先ほどの戦闘で調子にのっていたおれに対する洗礼でも与えにきたのだろうか。
 おれは内心で、情けないくらいに恐れを感じていた。見たところ、普通の女子生徒にみえるのに、彼女の纏う雰囲気が威圧的だったのだ。気づけば、居合わせた闘人たちの視線がおれたちへ向いている。けれど誰も干渉しようとせず、遠くから様子をうかがうように、こそこそと視線を送ってくる。

 

「取って食べたりしませんよ。鷹羽くん、あたしと同級生ですし。同じ闘人同士、よろしくね。」

 

 にこり、と笑いかけられる。その笑顔は可愛らしいという印象ではあったが、それ以上の感情は抱けない。
 同級生といわれたが、思い出せない。それもそうだ。おれの学年は300人を超える人数がいる。初等部や中等部を経ても同じクラスにならない人なんて大勢いる。廊下ですれ違っても、同級生かどうかなんてことも分からない。それは日常茶飯事のこと。だから、こうしてみたこともない相手から名前を覚えてもらっているというのは、感心よりも恐怖心のほうが勝る。なにより、彼女は闘人生だし。
 名も知らない彼女に笑い返してみせる。

 

「こちらこそ、よろしく。」
「うん。宮本さんも、よろしくね。」

 

 驚きは続く。コウさんのことも知っていた。コウさんはびくりとして、彼女と目をあわせたがすぐに俯いた。その反応にか、くすくすと小さく笑う。

 

「怖がられちゃった。ごめんなさい。わたし、小雪といいます。いずれ、そう、近く遠いときにまた、手合うことになるかもしれません。そのときは、楽しみましょう。」

 

 にこにこと笑う。それから、手を振ってさようならと立ち去った。小雪、は恐らく名前のことだ。その名、おれは聞き覚えがある気がした。どこで見たのか、聞いたのか、それは思い出せない。けれど確実に聞いたことがあるような気がした。
 コウさんがPCを起動させ、とても慣れた様子ですばやくキーを打っていく。PC操作がうまいことをなんてなしに褒めると、彼女は顔を赤くしながらも返事をしてくれた。

 

「大したことじゃない。我流だから、指の動きも雑だし。」
「それでもじゅうぶん、速いと思うよ。そんなふうに画面見ながら打てないし、おれ。」

 

 それ以上はコウさんは黙りこんで、画面のみを見ていた。それにしても、とおれは思う。コウさんが褒められ慣れていないことが、おれには不思議で仕方なかった。運動もPC操作も全くソツなくこなせているし、きっと勉強もできるまじめな生徒なのだろうに。教師や同級生から褒められたり、羨望の目を送られたりしていたはず。そして魔法者だからといって、他の生徒から疎まれているようにも見えない。そもそも、あの運動神経と強気な態度から、彼女がいじめられるとは思えなかった。ただ、単純に他人との接し方が分からなかっただけ、なのだろう。――桜の木の下で、おれに語ってくれた過去から、おれはそう推察するのが自然だと思った。自身の性に違和感を覚え、それによって悩み、泣いて、他人を拒絶してきた。おれとは深刻の度合いが違うかもしれないが、境遇は、もしかしたら少し似ているのかもしれない。
 ぼーっとしてしまったおれに、コウさんが訝しげな眼差しを送っていることに気づいたのは少ししてからだった。

 

「あんた、疲れてるのか。」

 

 じっと目があい、しかしすぐに逸らされた。心配してくれているのだろうか。少しだけ嬉しく思い、おれは大丈夫を口走る。
 コウさんが開いているページには遠距離用の多種多様な武器が掲載されてあった。形状も素材も値段も様々あり、けれどいずれも、なかなかの高額だ。アルバイトをしていないおれはあまり貯金に余裕がない。両親に仕送りをしてもらっているけれど、それもほとんど生活費に使用しているから、武器にあてられる金額もだいぶ限られてしまう。
 コウさんからマウスを渡してもらって、ページを切り替えてみていくと、桁がひとつ少なくなったページへ行き着いた。素材は各種樹脂系やゴム系になり、先ほど見ていた鉄だの銀だのステンレスだのよりは、だいぶ危険度も低くなったように思われた。
 ふと、おれの目に留まる武器があった。樹脂系素材、形状は先の試合で使用したものと似た苦内のような形、それが5本入りで1セット。値段は五千円。高価ではあるが、ぎりぎり予算内だと思った。

 

「それにするのか?」
「うん。とりあえず、これでいけるところまでいきたいから。報奨金が入ったら、買い換えればいいだろうし。」
「そうか。あんたがそれでいいなら。」

 

 コウさんは特に何も意見せず、おれの意思にうなずいてくれた。武器種を変更し、コウさんは長柄武器のページを開いた。それからページをとんとんと切り替えていく。ちゃんと内容を読めているのか疑問になるほどの速さだ。いわゆる、速読でもしているのだろうか。おれには、どんな形状の武器なのかを目で追うだけで素材や価格など全く意識できなかったが、コウさんは薙刀のページでようやく止まった。そして迷わず、上から二段目の右端の商品をクリックした。その価格にまず驚いた。三万を超えている。折りたたみの可能な、刃素材はアルミ。刃渡り約三十センチ。全長約百三十センチ。重量約四キロ……そんなに重たそうなものを、得物として選択するのか。大丈夫なのか尋ねる前に、コウさんがぽつりと言った。

 

「私は魔法者だから。どうとでもなる。」

 

 言葉の真意が少し読めなかったが、おそらく、魔法者特有の『利点』で重量の問題など解決できるということだ。その、彼女の言葉に、おれは寂しさを感じた。諦め、自虐、悲観。そういったコウさんの内心が隠れているようで、言葉が詰まった。
 商品を注文する画面を経て、出てきたページには、納品予定日が記されてあった。予定日は二日後。寮の部屋に届けられるみたいだ。
 武器の購入手続きを終えたおれとコウさんがPCルームを出たときだった。廊下の先に、中等部の制服を着た女子生徒が立っていた。さらりとした黒髪に、前髪の左側あたりに留められた花模様のヘアピンがよく似合う。可愛らしい女の子だと思った。ふとコウさんを見ると、コウさんはつかの間目を泳がせ、頬を赤くしていた。どうやら、コウさんの知り合いらしい。

 

「君はコウさんの友達?」

 

 おれがなんてなしに尋ねると、女子生徒は微笑して頷いた。

 

「わたし、平戸橋なつきと言います。宮本さんと同じクラスの委員長なんです。」
「コウさんのクラスメイトか。じゃあ、おれは先に行くかな。じゃあ、また明日。」

 

 コウさんに手を振り、おれはその場から離れる。なんだ、やっぱり、コウさんにもちゃんと友達がいたんだ。意外というのは失礼だが、あの時の話からすると、コウさんにはあまり友人がいないのではと思われたので、あんなふうに出迎えにきてくれる友達がいることに、おれはなんだか安堵を覚えた。
 二人に気を遣い一足さきに寮へと戻ると、そこでおれは熱烈な歓迎を受けることとなった。

 

「鷹羽くん、おめでとう!」
「すごかったぜ。まさかあの狐面の子に勝つとか。」
「それだけじゃなくて優勝までするなんて!」

 

 見知ったクラスメイトだけじゃなくて、おれの住まう第三学生寮で寝起きをともにする生徒たちまでもが――たぶん上級生、下級生の隔たりなく――おれを祝福してくれた。最初は何事かと驚いたけど、口々におれを褒めてくる彼らの言葉を徐々に理解していくと、おれは自身の顔が異常なほどに発汗し熱いことに気づいた。
 炭酸飲料が入れられたガラスのコップを手渡してくれたのは赤坂さんだった。

 

「本当におめでとう! 鷹羽くんの活躍のおかげで祝勝金、ほら!」

 

 赤坂さんが封筒をおれに手渡してくれた。その重さは、物理的には軽いが、おれにはとっても重く感じられた。赤坂さんたちから見守られながら中を開けてみると、万札が20枚、入っていた。おれは頭が真っ白になった。
 おれの戸惑いは周囲に感染したように一瞬、場が静まり返った。しかし、誰かが叫んだ「マジかよ」の声に、再び沸き立った。

 

「そんなお金見たことないよ!」
「うわ。闘人ってやっぱすごいんだね。」
「あれだけ活躍したから当然なのかな。でもやっぱすごい!」

 

 口々に驚きや羨望の声が出ている。おれは呆然としてお金を見ていた。しかし、そういえばと思い出す。このお金は、おれだけのものじゃない。おれに大会出場の誘いをしてくれたクラスメイトたちのものなんだ。当初の目的はお金じゃなく、ただ、自分に自信をつけるために出たかった。だから、今このお金をもらっても、正直、おれはあまり喜べなかった。
 肩をたたかれ、そちらを見ると、野木がいた。野木は赤坂さんと顔を見交わし、それから口を開いた。

 

「俺たち、さっき話し合ってたんだけどさ。その報奨金は、白刃のものだから、白刃が使いたいように使って欲しいんだ。」
「えっ。でも……」
「鷹羽くんは一人ですごく活躍していたし、それに、鷹羽くんも闘人生になったんだよね?」

 

 赤坂さんまで、そう言ってきた。どうやら、このお金を持ってきた闘人生から、その旨を聞いたらしい。
 彼女は、この報奨金で闘人に必要なものを調達してと、そう言った。野木や、おれを見ているクラスメイトたちは、みんな頷き、同意していることを態度で示してくれた。
 けれど。おれは、釈然としなかった。せっかくみんなで大騒ぎをするために獲得したお金なのに、おれが自分のために使うのは、やはり気後れしてしまう。なにより、申し訳ないという気持ちがどうしてもあった。みんなはそれで納得してくれているようだったが、おれは違った。
 とん、と肩を叩き、おれに笑顔を見せたのは、赤坂さんだった。

 

「鷹羽くんが闘人生として、たっくさん活躍してくれたら、その時は私たちも応援してよかったって思えるから。だからといって、途中で挫折してしまったとしても、私たちはあなたを責めたりしない。明日から闘人として、がんばって。でもどうか、無理はしないでね。」

 

 赤坂さんの励ましの言葉に、みんなは続いた。

 

「応援してるから!」
「一等生目指してがんばれ。」
「早く新聞載れよ?」
「鷹羽ならいける!」
「無茶すんなよ。」

 

 クラスメイトだけじゃなかった。上級生も、下級生も、みんながおれを応援してくれた。気恥ずかしかったが、それ以上に、嬉しかった。同時に、とても大きなプレッシャーを感じた。
 どのような生活になっていくのか、どんな闘人たちと闘わなければならないのか。それは分からないが、不安と、なにかの期待が、おれの動悸を早くする。

 

「ありがとう。おれ、いけるところまで、がんばってみるよ。」

 

 少し声が震えて、格好悪かったが、これが精一杯の返事だった。
 おれの優勝祝いと闘人入りパーティーは、それから門限の時間ギリギリまで行われて、明日からの闘人生活を想像しながら、ゆっくりと眠りについた。

 

 

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