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エターナルブレイド 第2話

エターナルブレイド 第二話 『時の調律者』 20120326(最終更新20180605)

 

 

 苦手な数学をカバーするために、英語は確信をもって回答を埋めていった。筆記試験を終えたあとは、息つく間もなく面接試験を受けた。緊張はしたが、練習したときのようにしっかり答えることができた。たぶん、落とされることはない。

 まどろみの意識の中で、つい先刻の出来事を思い出していた。受験の本番はもうすぐ。予行練習ともいうべき私立受験は、特に問題もなく合格できることだろう。

 ああ、ゆきちゃんに会いたいなぁ。幼馴染のゆきちゃんもきっと、志望校に合格できるだろう。そうして落ち着いた頃にでもまた、一緒に遊びに行きたいな。

 

 

 

「あ、気がついた。」

 

 眩しい白を意識し、私は目を開けた。さっきのは……夢を見ていたのだとすぐに知る。次いで、傍にあった顔に眠気は吹き飛び、同時に私は起きあがろうとしてしまって思い切りよく相手の額と衝突した。声にならないうめき声をあげ、私は再び仰向けに寝ころんだ。

 

「大丈夫? ごめんね、驚かせてしまったね。」

 

 白い服は制服のようだ。さらさらの茶髪に青の目は、まるで海外の女優のように綺麗。苦笑する様子さえ見惚れてしまう。可愛らしい女の子だった。初対面の彼女に対し、誰だろうかと疑問が浮かぶも相手はそれを察したようににこりと笑って、

 

「わたし、ミシェル。ここの第二学生。よろしくね、『時の調律者』様。」

 

 額をさすりながらも紹介してくれた。礼儀正しい、ミシェルと名乗った可愛い女の子。私も慌てて起きあがり、咄嗟に自己紹介を口にする。

 

「私は相宮奈々子。中学三年生です。」
「……チュウガク? どこの国の学院なの? 聞いたことがないよ。」

 

 さも当然のごとく聞き返され、私は言葉に詰まった。もしかしたらここは、中学校がない国なのかもしれない。どう説明したらいいのか、私は思惟する。

 

「日本の、義務教育の一環というのかな。そういう学校。」
「へぇ。学院に通う義務があるのね!」

 

 素直に驚かれてしまった。詳しくは知らないけれど、日本以外の国では学校に通う義務がないところもあるらしい。なので彼女の反応は当然のものかもしれない。

 と、その時だった。

 

『リリーン! コネクト教授。第二学生、ルラ・フィン・カーティス。』

 

 突然の高い声に私は肩を震わせてしまった。見れば、この部屋の扉の傍にあるインコのような置物が音の発生元だった。まるでインターホンだ。「来たみたい」とミシェルは扉を眺めた。
 戸が開き、黒いローブに身を包んだ濃い茶髪の女性と、ルラが入室した。
 巻き髪具合がかなり自然な女性は、ミシェルに「ご苦労様」と声をかけた。それから私へ視線を移した。

 

「『時の調律者』候補、ナナコ様。わたくしはアスドワ・コネクトと申します。」

 

 仰々しく頭を下げられ、私も思わずお辞儀をした。アスドワさんは手になにかを持ち、それを私に差し出した。わけも分からず受け取ると、それはネックレスだと気づいた。赤色の石が埋め込まれた装飾部分には何かの紋様が刻まれている。石を眺めていた私へと、アスドワさんが手を伸ばし、そっと私の左頬へと触れた。

 

「『時の調律者』候補の証――それを身につけていれば、無用な問題は起きません。保身のため、常時身につけてくださいますよう。」

 

 彼女の茶色の瞳が真剣さを帯び、私は頷く以外に動けなかった。アスドワさんは離れ、ルラに「頼みますよ」と言い退室した。
 私はアスドワさんの言いつけ通りにすぐにネックレスを装備した。普段からあまりアクセサリーなどはしないので少し違和感はあるけれど、不快感はなかった。

 

「ミシェルは名乗った?」
「もちろん。ナコとはもうお友達よ。」

 

 ミシェルに微笑みかけられ、私は笑い返す。ナコと呼ばれたが、たぶんナナコという名前は発音しづらいためだろう。学校にいたAETのスティーブンもナーコと呼んでいた。
 ルラは何か面倒そうに息をつくと、私のほうに歩を進めた。

 

「私は、ルラ・フィン・カーティス。第二学生。『時の調停者』候補。」
「……質問してもいい?」
「いいよ。」

 

 ルラの代わりになぜかミシェルが返事をした。どちらも事情は知っているようなので特に気にせず、私は疑問を言葉にする。

 

「さっきから、時のなんたらって、それはなんなの?」

 

 不躾な訊ね方だった。それでも気にすることなく、ミシェルは答えてくれた。

 

「『時の調停者』は、過去から現在を司る。ルラのことね。『時の調律者』は現在から未来を司る。あなたのこと。ルラは、時空間移動を許される稀少な魔法使い。そしてあなたは、未来調停を任される貴重な存在。」

 

 よく、わからない。私の心情を察したように、今度はルラが話し始めた。

 『時の調停者』は対象のモノを現在から過去の姿、または過去そのものに『戻す』ことができる。しかし対象が『時の調律者』、すなわち未来を視ることができる者にはそれが無効。――独房でルラは私の記憶を過去へ戻し、あの屋上で逢う直前まで遡らせようとした。しかし私は『時の調律者』だったから、それは叶わず。そして、『未来』を視ることができる私はこの国では貴重かつ重要な存在なので、無碍に扱われない……。

 そこまで聴いた時、私は何か言い知れない不安感に襲われた。無碍に扱われない、それは有り難いことだからいい。しかし、問題はほかにある。

 

「……ちょっと待って。じゃあ、私は、これからどうなるの?」

 

 何の気なしにこのネックレスを受け取り、ミシェルたちと友達になった。微妙にこの魔法の国に馴染みかけてきた。
 いや。馴染むのはおかしくないか。魔法の力でこの国に来たのなら、また同じように私を日本に帰してくれるのではないか。先ほどからちっともその話題がないので、私は嫌な予感を拭えない。もしかして。

 

「……私は日本に帰してもらえないの? というよりは、あなたたちは、帰す気が、ない?」

 

 貴重な『時の調律者』とやらが現れた今、どう考えてもそれを失わせることはしないだろう。
 私のぼやきを、ルラとミシェルは顔を見合わせて、それからまた私へ向いた。口を開いたのはルラだ。

 

「分からない。まだ君は『時の調律者』候補に過ぎない。ただ、君にとっての朗報になるかは知らないが、この世界と君の世界は時空法則が異なる。文献によれば、この世界と君のいた世界には大きな時差があるらしい、きっと君が元の世界へ帰ることができた時、さほどの時間経過はしていないはず。そして幸運なことに、七昼夜のちに、『賢録古書』が開かれる。そのときに君が『時の調律者』候補から外されれば、元居た世界へ帰ることができるだろう。」

 

 よく理解できないが、七昼夜とはすなわち一週間後のことだろうか。つまりは、来週には帰ることができるかもしれない。そういうことだろう。この世界だとか私の世界だとか、時空法則だとか……情報処理機能がもうパンクしそうだった。次から次へと意味の分からない現実が襲いかかってくる。

 しばらくの時間を置き、ようやく考えが落ち着いた私は今、ミシェルと通路を歩いていた。ルラは用事があるとかでこの場にはいない。代わり、ミシェルが私を案内してくれるらしい。
 ――魔法使い養成学校『聖ハイアル魔法専修学院』がここの名称。もはや驚くのも難儀だった。すべてを受け入れる心づもりで私はミシェルについていた。

 

「二年制で、制服は白と黒があるの。黒は魔法使い候補、白は魔導士候補。」
「……なんの違いがあるの?」
「ん。そっか、じゃあ図書館に行こう。」

 

 ローブを纏っているミシェルは私の手を引き、階段を降りた。地下二階、地上五階の広さを持つらしいこの学院。最下層部に私が入れられていた独房があり、その一つ上の階に図書館があるという。話を聞くだけでも広大であることが分かるが、それ以上に建物自体もとても古い造りだと思わせる。見た感じは世界遺産に登録されているような西洋の城と同じ。相当な歴史のある建物だと判断がつく。

 

「ここは国立大図書館でもあるから、許可を得た外部の人も訪問するの。騒いでいると館領さんから叱られるから静かにね。」

 

 唇に人差し指をたて、ミシェルはそっと扉を開けた。私は息をのんだ。
 想像を遙かに越えた規模、蔵書数。果たしてこれが地下一階の部屋なのかと思わせるほどの広大な部屋。なにがどこにあるのかを把握することができるのかと問いたくなる。部屋の中に居る人の大半はもはやお馴染みの黒いローブを羽織っている。人数はざっと30人はいるようだけれど、この部屋の広さだ。全く少なかった。
 ミシェルに手を引かれなければ私は、入り口でずっと突っ立ったままだったかもしれない。私は左右のみならず上を見上げた。本当にここは地下一階なのか。そんなふうに思わせる、推定10メートルはあろう本棚の壁。あんな場所の本、どうやって取るんだ。ふと右のほうを見ると、人が浮いていた。見間違いじゃない、文字通り身体が浮かんでいる。ぎょっとする。

 

「ミシェル、あれ、どうなって……」
「ん、あれは浮術板。室内は本の保管のため、原則魔法使用禁止だから高い場所の書物はあれに乗って取るの。」

 

 丁寧に説明を施し、ミシェルはさらに奥へ進んだ。人があまりいないこの棚は「魔法基礎知識」の分類がされている場所らしい。ミシェルは私の手首を解放して、本棚の背表紙を眺めている。しばらくして一冊の本を私に手渡した。

 

「ココアの高等魔法の恩恵、たぶん文字も解読可能だから読んでみて。」

 

 知識は字から、というのが魔法の基礎の基礎らしい。ミシェルはほかに捜し物があるそうで、本棚の先へといなくなった。
 椅子に座り、本の表紙を見る。妙なうねった文字が書かれているが、不思議なことに私はこれが「魔法基礎知識【素】」と読むことができた。まるで英文を訳すときよりスラスラと読めてしまった。どきどきしながら本を開く。リアルなイラストがあり、そこには【理解得らば結合為し、可限の素体具現成す】とあった。ページを開いていくと、魔法の理論だの分類だのが次々に出てきた。

 

「あ。」

 

 『魔法者の分類』とあるページに行き着き、私はようやく理解した。

 

 ――魔法を使う人には五の分類がなされる。学院には通わないが魔法を使える者を【魔法者(フェディラー)】。学院在学者、卒業者を【魔法使い(ホーリエ)】。さらに魔法使いの中でも優秀な者のみが通う大学院を卒業した者を【魔導士(マスター)】。魔導士の中でも免許皆伝をしている者(教師など)を【魔術師(シスター)】。薬草師の総称【魔女(ウィード)】。

 

 一口に魔法使いといっても、こんな分類がされているとは。奥が深い魔法の世界に少しだけ胸が高鳴った。
 肌に触れるなにかの気配。不快感はないが、気になった私は本棚の向こうを見遣る。見覚えのある黒髪……あの子だった。本を持ったままそちらへ近づく。黒髪の子は宙に浮き、本を読んでいる。ここは魔法を使ってはいけない場所なのではないか。私が声をかける前に、彼女は私に気づいて視線を向けた。

 

「こんにちは。」

 

 出し抜けに挨拶をされた。私は頭を下げ、それから、

 

「魔法使って、いいの?」

 

 館領さん(司書のことだろう)に叱られるのではないかとハラハラした。しかし彼女はきょとんとして、地上へ降りてきた。

 

「いけない。でも、本を読むときはあの姿勢が楽だから。」

 

 とん、と床に足をつけて、黒髪の子は本を閉じた。そこで私は思い出してしまった。――キスをしたんだ。この黒髪の女の子と。
 今さら羞恥の気持ちが沸き上がり、私は頬に熱を感じた。なんとなく気まずく思え、羞恥心をごまかすために、まだ名も知らない彼女に私から名を告げる。

 

「あー。私は、相宮奈々子。呼びづらかったら、ナコでいいから。あなたは――」
「ココア・ビアンテです。第二学生。ナコ、調子はどうです?」

 

 私の額にココアの手が触れ、私はどきっとした。出会ったばかりの時は全然気にしなかったが、ココアは、目が……。
 まるで明るい場所で見る猫の目のような、縦に長い瞳。灰色と黄色が混ざったような淡い目の色。吸い込まれそうな、奇妙な、魅力的な目だ。じっと見つめてしまったためか、ココアは怪訝そうに「なにか」と述べた。
 焦って私は顔をそらし、それからココアに「なんでもない」を言う。

 

「あ……あの。ココアはなんであのとき、あんなこと……」

 

 具体的になにがというのは言えず、濁らせる。しかしココアには伝わったらしい。「うん」と呟き、彼女は、ベ、と舌を出した。驚いたのは、その舌に描かれた紋様。入れ墨だ。
 声も出せず、唖然とする。ココアは舌を引っ込めて、

 

「これ、わたしの紋なのです。証言紋(しょうごんもん)って、あなたに恩恵を与えた魔法。」

 

 翻訳魔法の一つだと言う。ココアは私の頭を撫でて、「ごきげんよう」と言い残し、ふわりとまた宙へ舞った。不思議な女の子だ。
 入れ替わるように帰ってきたミシェルは四冊の本を持っていた。聞けば、授業課題のための資料らしい。彼女に許可をもらい、私はミシェルたち学院生徒の学生寮まで連れていってもらうことにした。

 
2009.9.28
(修正2010.6.12)
修正20120402

 

 

 

第3話

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