創作作品展示室

主にオリジナル小説が掲載してあります。

エターナルブレイド 第3話

エターナルブレイド 第三話 『魔導士候補者たち』 20120326(最終更新20180605)

 

 

 古い歴史を持つらしいこの魔法学校は二年制で、ミシェルやルラは現在二年生だという。全寮制の学校というとなんとなく私立の学校を思い浮かべるが、ここは学費自体は他の学校と同じくらいらしい。魔法を専門に習うという点以外は、どうやら日本にある高校と同じようなものと思っても間違っていないようだった。

 

「ナコは、お勉強が好き?」

 

 ミシェルからの質問がきた。隣を歩くミシェルを見てから、その手に持つ本の小さな山を見る。どんな勉強をしているんだろう。好奇心が刺激される。

 

「種類にもよるけど、学ぶことそのものは好きかな。」
「そう、好きなのね。それはいいことだわ。」

 

 にこにこと笑うミシェルは本当に可愛らしい。なんとなく気恥ずかしくなり、私は先ほど借りてきた魔法の勉強本へ視線を落として、表紙を眺めた。『魔法基礎知識【素】』――国語辞典を彷彿させる分厚い本。今まで小説や漫画でしか知らなかった魔法の世界について、より詳しく知りたいと探求心が芽生えてきたため、これから読めると思ったらこの分厚さも苦痛にはならないだろうと感じた。それにしても、本当に不思議な気分だ。ミシェルたちの話言葉だけでなく、こんな変な文字まで読めるなんて。……ココアは、すごい魔法使いだ。

 

「ここは休閑室よ。ルールではないけれど、このお部屋ではお勉強はしないの。」

 

 歩きながら、通り過ぎざまにミシェルが説明をしてくれた。賑やかな音がもれてくる部屋だ。いわゆる談話室のようなものか。確かにこんなに賑やかだったら、勉強なんてしていられないかもしれない。

 

「ラ・ユースニア。ごきげんよう。」
「ごきげんよう。ロア・マスティン。」

 

 廊下の先から歩いてくる生徒たちはみんな、ミシェルに挨拶をしていく。彼らは必ず「ラ」という一言を添えているが、これにはなんの意味があるのだろう。『知識は字から』と言われてしまったが、気になったことはすぐに知りたいのが人の性だと思う。こっそりミシェルに訊ねてみたら、答えは案外簡単なものだった。

 

「ラというのは未婚の女性につける敬称よ。ロアは未婚の男性ね。」

 

 なるほど。ミスターとかミスとか、ああいうものと同じ意味だったのか。納得したところで、ミシェルはある部屋へ入った。

 

「ミシェル。良かった、やっと会えた。」
「ロザリー。どうしたの?」

 

 先ほど通りかかった部屋より幾分も静かな場所。入室したばかりのミシェルは、明るい茶髪の女の子に、山積みの本を持つその手を握られていた。相手の言葉から察するにずっとミシェルを探していたみたいで、その様子から焦燥感が読みとれた。
 ロザリーと呼ばれた女の子はミシェルの後ろにいた私に気づいた。ついと覗き込むようにこちらへ視線を向けて「お客様?」と今度は私に歩みを寄せてきた。

 

「特別客人よ。ナコ、彼女はロザリー・ルース。わたしのお友達。」
「まあ。ごめんなさい。寒くはない?」

 

 入り口にいた私の手を引いて入室させ、ロザリーはわたしの肩に手を乗せた。白い制服を着用するロザリーの首もとには、ルラが持っていた石とは違う色の石がさがっている。隣でローブを脱いだミシェルもまた、ロザリーと同じ白い制服だ。

 

「遅くなりましたが、私はロザリー・ルース。第二学生です。」
「私は相宮奈々子。ナコと呼んでください。」
「外国の方ですね。ナコ、どうぞよろしく。」

 

 礼儀正しく、気品のある笑顔でロザリーは頭を下げた。それからまたミシェルへ振り向き、何事か告げると、今度はミシェルがなにやら複雑そうな表情をみせた。どうしたのだろう。

 

「そう。分かったわ。ありがとう、ロザリー。――ナコ。」

 

 思案の様子を解き、ミシェルは私へ顔を向けた。白魚みたいな指で私の手を握り、ごく小声で、

 

「ごめんなさい。案内はしばらく中止になってしまうから、ここで待っていて。ここには悪い人はいないから、困ったことがあったら誰かに伝えてね。」

 

 そのように言い残し、ロザリーへと借りてきた本を預けたら、どこからか取り出したローブを羽織るとミシェルは部屋から飛び出していった。ロザリーは本の山を机上へ置いて、右手の人差し指で二回、最上部の本の表紙を軽く突いていた。その際に、彼女は穏やかな表情で私へ告げる。

 

「ナコは心配しないで大丈夫。ミシェルはスリー・カラーの一人だから、その仕事に行っただけよ。」

 

 手を招かれ、私は部屋の端にあるソファに座った。ロザリーもまた私の隣に腰をおろす。次から次へと、私の知らない単語が飛び出してくる。本を読むより先に、私は人から聞くことで知識を貰うことにした。

 

 スリー・カラーは、学院を代表する三人の首席生徒のこと。いずれも二年生の白服着用の生徒。
 この学校には二タイプの制服があり、それぞれ白と黒で分けられている。白服は魔導士候補。学年問わず、成績上位十名のみが着用を許される特別な存在。大学院へはこの白服着用の生徒のみが入学を許可される。黒服は魔法使い候補で白服生徒以外の魔法学校のすべての在校生が着用するもの。魔導士とか、魔法使いとかの単語は、ここへ来る前にミシェルにも教えてもらったし、私が借りた本にも書かれてあった。
 何気なく部屋を見回すと、確かに黒服を着た人が複数いた。というよりは、ロザリー以外に白服を着る生徒は見あたらなかった。

 

「成績優秀な魔法使いだけが、この白服を着られるの。自慢ではなく、誇りを感じているわ。」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせて、ロザリーは頬を染めた。なんとなく、こちらも嬉しくなってしまう。

 

「ロザリーは、すごいんだね。」
「ううん。私だけじゃないわ。スリー・カラーのミシェルやルラ、テオは、もっとすごい。七昼夜のちの祭典での護衛任務とか、有事の際の特別任務とか……一介の魔法使いでありながら、国に関与する任務を受けられるの。スリー・カラーになればね。」

 

 不意に、そんなふうに語るロザリーに影がさした気がした。悔しいとか、妬んでいるとか、そういう雰囲気ではなかった。羨ましい、のだろうか。

 

「ロザリーも、スリー・カラーを目指しているの?」
「いいえ。……なんというのかな。私は、誰かを支えたいの。代表になるのではなくて、補佐をしたいというか。」

 

 照れ笑いを浮かべ、ロザリーは立ち上がった。スカートのポケットから懐中時計を出して、それから私へ振り向く。

 

「まだ食堂が開くまで時間があるから、案内するわ。ミシェル代行ですが。それでも構わないかしら?」
「本当? もちろん。お願いします。ありがとう、ロザリー。」

 

 ロザリーはとても良い人で、私の質問にも逐一丁寧に答えてくれた。案内をされる中で、私は少しずつこの学院の特性のようなものを理解してきた。習う事柄は魔法とかそういった不思議な科目が多いけれど、基本的には全寮制の学校などとそう大して体系は変わらないらしい。私のいた世界とそれほどの差がないことに、私は人知れず安心感のようなものを覚えていた。

 廊下を歩いているその先から、黒ローブを纏う、青い短髪の生徒が歩いてきた。外見は中性的だけれど、女子生徒だろうと雰囲気でなんとなくそう察する。ロザリーが相手へと声をかける。

 

「ウィル。鍛錬の帰り?」
「やぁ、ロゼ。その通り。ん。そちらが『時の調律者』候補様かい?」

 

 そして予想外なことに、その女子生徒は、出し抜けに私に微笑を手向けてきた。なぜ例のあれを知っているのだろう。驚く私に頭を下げ、彼女はその短い銀髪を揺らして顔をあげた。

 

「初めまして。あたしはウィリー・チーター。第二学生。ウィルと呼んでくださいね。えぇと、確かあなたはナーナ、コ……」
「相宮奈々子です。ナナコは呼びづらいですよね。ナコで大丈夫です。」
「失礼。ナコ。よろしく。」

 

 私の名を上手に言えず、はにかみを浮かべながら、ウィルは頬を掻いていた。彼女は背が高く、少し男の子っぽい印象があったが、可愛らしい一面もうかがえた。
 しかし、なぜ私の名と例のあれを知っているのだろう。

 

「私のこと、誰かに聞いたの?」
「ああ。そうそう。白服生にはナコのことを把握させておきたいそうだ。ロゼ、ナコは『時の調律者』候補様だよ。」

 

 成績優秀者だけが着用する白い制服。きっと、私の身になにかあったときの保険として白服生徒間で通達させているのだろう。なんとなくそう思った。
 私が『時の調律者』候補というのは、まだロザリーには話していなかったため、驚くかと思われた。しかし彼女は、特に驚く様子もなく「イェイサー」と返事をした。たぶん、了解の意味の言葉だ。

 

「では、あたしは他の白服生に伝達してくるから。ロゼ、ナコをよろしく。またね、ナコ。」

 

 私たちを行き過ぎる際、ウィルのローブの前側が少しだけ開き、白い制服が一瞬見えた。ウィルもまた白服の生徒。そういえば、あとの白服生徒はどんな人たちなのだろうか。学院内の成績上位十名……きっとみんな優秀な生徒なのだろう。

 ウィルを見送ったロザリーがどこか呆れたように苦笑をする。

 

「ウィルはいつもあんな感じだから。慌ただしいったら。」
「そうなんだ。ねえ、ロザリー。質問ばかりでごめんなさい。白い制服の生徒って、他にどんな人がいるのかな?」

 

 曲がり角を曲がり、歩き続けながら「構わないわ」と快く笑みをみせ、ロザリーは紡いだ。

 

「魔導士候補生のうち九人は第二学生、残り一人は第一学生。男子生徒が五名、女子生徒が五名ね」
「一年生にも白服生徒がいるの?」
「ええ。リーヤ・アテッサ……あの人は秀才よ。第一学生いちの魔法使い。闘技でも学院一と言われていて……」

 

 ふと、ロザリーが足を止めた。じっと廊下の先を見つめている。私もそちらを見遣る。ローブを纏う、金髪の女子生徒がいた。桃色のカチューシャが金髪によく映えている。

 

「ごきげんよう。ロザリー姉様。」

 

 しゃら、とカチューシャの飾りがすずやかな音を鳴らした。一年生の人だろうか。ロザリーを「姉様」と呼称したことからそう判断する。そして、彼女は私にも目を向けた。

 

「ナコさん。私はリーヤ・アテッサ。今しがた、ロザリー姉様と話題にされていた、リーヤですわ。」

 

 さながらお姫様のような印象を受ける、そんな美しい微笑。この人が、白服の一年生。私は好奇心による胸の高鳴りを抑えきれなかった。

 

「あなたがリーヤなんだね。将来有望の、すごい魔法使い。」
「そんな。大げさですわ。それに、私なんかより、ロザリー姉様のほうが何倍も素晴らしいのに。」

 

 距離を詰め、リーヤはロザリーを見た。気のせいか、釈然としないみたいにロザリーは眉根を寄せて、どことなく不機嫌な様子である。先ほどまでの優しげな笑みをみせていたロザリーとはまるで別人のような雰囲気だった。

 

「謙遜なんて要らないわよ、リーヤ。あなたの実力は学院長様も認めておられるのに。」
「そんなもの、ロザリー姉様のお褒めにも及ばない気休めに過ぎませんもの。私、ロザリー姉様を尊敬していますのよ。」

 

 ロザリーとは対照的にとても明るい雰囲気を纏うリーヤ。けれど、どこか噛み合わない、二人の会話の応酬。内容が、という意味ではない。雰囲気というか、言葉と表情から滲み出るロザリーの不愉快そうな気持ちが、そう思わせた。

 

「用事が済んだなら、第一学生寮へ戻りなさい。」
「イェイサー。ロザリー姉様。では、ごきげんよう。ナコさん。」

 

 リーヤの姿が見えなくなってから、ロザリーは深くため息を吐いていた。もしかして、ロザリーはリーヤを良く思っていないのだろうか。
 リーヤが去ると、刺すような雰囲気は緩和され、先ほどと変わらない穏やかなロザリーがそこにいた。

 

「見苦しいところを見せてしまってごめんなさい。どうにも、あの人には慣れなくて。」
「苦手、なんだ。」
「苦手……そうね。あの人のことは好きになれないのよ。なぜかしら。」

 

 なんだか寂しげな顔だ。いや、当然だ。誰だって、一人でも快く思えない人がいたら、心苦しいものなんだから。
 黙ってしまったロザリーに少し引けを感じたものの、あまり思い悩まないでほしかったため、私は話題を変えることにした。

 

「闘技って、どういうものなの?」

 

 何気なく聞き流していた単語を、私はちゃんと覚えていた。話題転換がうまくできたかは、ロザリー次第だったが、どうやら成功したみたいだった。

 

「闘技は、魔法使いや魔法者特有の戦闘なの。特殊装甲衣を纏うことで、空圧危度を低減できる。昔は制限もなく自由にやっていたのだけど、今は規則が厳しくなった分、競技の一つになっているのね。」

 

 戦闘が競技というと、いわゆる格闘技の一つと思っても間違いではないのかもしれない。ただし、こちらは魔法使い特有というので、なにかしら派手な形だというのは予想できる。あとで闘技についても詳しく調べてみよう。
 学院案内をしてもらっているうちに、食堂が開く時間になったため、私はロザリーと共に食堂へ向かうことにした。

 

2010.1.17
(修正2010.6.12)
修正20120411

 

 

第4話

wspcompany.hateblo.jp

 

 

Copyright © 2018 flowiron All rights reserved.