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エターナルブレイド 第4話

エターナルブレイド 第四話 『白服生』 20120326(最終更新20180605)

 

 

「ミシェルなら『人に聞く前に文献で調べろ』というけれど、私は聞かれるのは嫌ではないから、分からなかったら頼ってね。」

 

 食堂への道すがら、ロザリーはありがたいことを言ってくれた。けれど、なんでもかんでも聞きまくるのはやはり気が引けるため、最低限のことは自分で調べようと思った。

 ロザリーの学院案内はとても丁寧で分かりやすく、多分私はこの学院の施設の大半をすでに記憶に刻むことが出来たと思う。いろいろな場所を案内してもらっているうち、お昼の時間が近づいたためにロザリーは食堂へと案内してくれた。

 

「この先に食堂があるの。入り口そばで希望の量を言ってね。料理主が調整してくれるので、適当でいいときは『クルーツ』と一言言えばいいわ。」

 

 人の話し声や気配が近づくにつれ、食欲を刺激するいい香りが漂ってくる。ほとんどの人はローブを纏っていて、みんな食事を楽しみにしているように笑顔だった。
 学食のような広さや景色を想像していたため、私は、食堂内の予想だにしなかった光景に、思わず立ち止まってしまった。ざっと見渡した限り、人そのものの数は多くはない。だが、学校の体育館並の広さに、白いテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルがいくつも設置してあり、まるで結婚式の披露宴会場を思わせた。パーティーでも開かれるのかと、つい圧倒されてしまった。

 

「ナコ、こっち。」

 

 ロザリーに手を引かれてようやく足を動かせた。食堂の出入り口はどうやら二ヶ所あって、それぞれに窓口らしき場所があった。生徒が一人一人、そこでなにやらやりとりをするのが見え、ロザリーは私に手本を見せるために先に対応してくれた。

 

「ロザリー・ルース。クルーツ。」

 

 名前ののちに、自分の食べたい量を注文するらしい。彼女にならい、私も進み出る。
 小さな窓口にはマイクのような小さい木製の物体があり、その上部の壁には献立が書かれたボードがあった。文字はもちろんこの国の独特のものだけれど、日本語を読むようにすらすらと理解できる。――白身魚の揚げ物、トマトスープ、海草と野菜のサラダ、シュン牛のステーキ、白米もしくは黒米もしくは桃パン。なかなかボリュームのありそうなメニューだ。

 

「相宮奈々子。クルーツ。」
『オーダー完了。』

 

 鈴の音と共に声が聞こえ、チンとオーブントースターのような音がした。ロザリーが手招きしたので彼女のほうへ向かった。

 

「あんな感じで良かった?」
「上出来よ。えっと、ナコの席は……」

 

 がやがやとする会場内を進んで行くと、ミシェルがこちらに手を振っているのが見えた。ロザリーと一緒に向かうと、そこにはミシェル含め白服の生徒たちが六人も座っていた。

 

「ロザリー、ナコ、お疲れさま。ナコはこれからわたしたち、白服生と食事をとることになるわ。」

 

 座っているのは見慣れない白服の生徒が四人と、もう一人はさっきも会ったウィルだった。彼女らと、ミシェル、ルラ、ロザリー、そしてリーヤが揃って……いや、一人足りない。
 白服生徒は成績上位十名だ。とすると、あと一人いれば全員揃うのか。成績優秀の魔法使いたち。なんとなく緊張してしまうのは、彼らが秀才であることを知っているからだろう。

 私が着席をするのを見届けると、白服生の一人、黒髪の男子生徒が立ち上がり、右腕を自身の胸の前にやって頭を下げてきた。

 

「ミシェルから話は聞いているよ。まずは、紹介からだね。初めまして。僕はフラン・ケニーズ。第二学生だ。」

 

 フランの自己紹介をかわ切りに、白服を着用した生徒たちは名前を教えてくれた。
 濃い茶髪に緑の目を持つのはアクセス・クランケット。アックスと呼ばれているようだ。青い髪に藍色の目を持つコロナ・ワークス。先ほども会った銀の短髪に青の目を持つのはウィル。オーラン・ビシェッドは黒目に深い赤髪を持っている。ウィル以外の四人は男子生徒だった。

 

「白服の生徒は僕らと、ミシェル、ロゼに、あと三人いるよ。スリー・カラーのルラ・フィン・カーティス。同じくテオ・ハウンズ。彼ら二人はスリー・カラーの任務中だから今は不在だけど。そして、期待の新星リーヤ・アテッサ嬢はまだ来ていない。」
「またロゼが厄介扱いしたんじゃないのか? だめだぜ、後輩いびりは。」

 

 フランに次いでコロナが茶化すようにロザリーを窘める。少しだけ雰囲気が悪くなったが、そこはミシェルが空気を変えた。

 

「黒服たちが注目しているわ。お食事も間もなく配膳されるし、談話はまたあとにしましょう。さぁ、ナコは主食はなにがいい? 白米と黒米、それに桃パンがあるけれど。」

 

 ミシェルの隣に私は座り、彼女に聞かれた。白米以外聞いたことがない未知の食べ物だ。

 

「黒米と桃パンって、なあに?」
「黒米は薬膳で、淡泊な味だけれど栄養は一番含まれているの。桃パンは果物を混ぜた甘いパン。お肉料理によく合うのよ。」
「じゃあ、黒米にしてみようかな。」

 

 あまり予測できない味のものを食べるのは少し勇気がいるが、興味深かったので黒米を頼んでみた。
 そして間もなくして、どこからか涼やかな鈴の音色が聞こえた。風鈴みたいな爽やかな音ののち、食器が並んでいただけの真っ白なテーブルクロス上に、突如として料理が現れた。物音ひとつなく整然と並べられた料理は、どれもいい匂いがしている。驚くよりも空腹を満たしたい食欲が勝り、私は手を合わせて「いただきます」をした。

 

「いまのは食前の儀礼?」

 

 隣に座るロザリーが関心を寄せてきた。頷き、私は小声で教える。

 

「食べる前と後にやるの。食材や料理を作ってくれた人への感謝の意味として、私はやってるよ。」
「へえ。なるほど。いい人ね、ナコ。」
「大切だものね、そういうのって。」

 

 ロザリーに続いてミシェルが会話に混ざった。この国ではそういう風習や習慣はないのか。確かにこれは珍しい習慣かもしれない。こんな境遇になってはじめて私は、日本特有の文化を体感する。

 

「アックス、薬方学の課題はやったかい?」
「あと一枚分で終わるよ。」
「まさかウィル、転写する気か?」
「えっ。まさか。なぜ分かった!」

 

 コロナとウィル、アクセスの楽しげな会話。やれやれと呆れながらもフランはサラダに添えられてある豆(ソラマメのようなものだ)を隣のオーランの皿へ押しつけている。「こら」とオーランがフランへ窘めを入れれば、ロザリーたちが笑う。みんな仲がいい。成績優秀であり他の生徒とは一線をかく彼らでも、やはり私と年が近い少年少女に変わりはないんだ。みんなのやり取りを眺める私に、ミシェルが耳打ちしてきた。

 

「わずかな付き合いになるかもしれないけれど、もしナコが元の世界へ帰ってしまっても、私たちはお友達だから。いつまでも繋がっているからね。」

 

 優しい、嬉しい言葉だった。じんわりと心が暖まる感覚。成り行きで、そして不本意とはいえ、こんな不思議な世界に来てしまったけれど、この世界の人はみんな暖かくていい人ばかりで……たった数時間前まで高校受験をしていたことを忘れてしまうくらい、いろいろあって……それでも今はこうして馴染んでしまっている。帰りたい気持ちはもちろん残っている。でも、まだしばらくはこの魔法の世界について学びたい。そんな些細な葛藤が、私の中で芽生えていた。

 

「明日から後期が始まるの。講義見学をしてみたかったら、わたしから教授に頼んでみるけれど。どうする?」

 

 賑やかな空間で、ミシェルからの提案がはっきり聞こえてきた。どんなことを習っているのか、関心は尽きるわけがない。二つ返事でお願いすると、ミシェルは小さく笑った。

 

「ナコのような人が『時の調律者』候補で良かった。教授もきっと快諾してくださるわ。」

 

 不思議な褒め方をされた。私は望んで『時の調律者』なわけではないのに。ふとした瞬間に、やっぱりここは私の知らない世界なんだと自覚させられる。
 きっと帰ることはできるだろうから、今はこの世界を楽しもう。そのように決めて、私は食事を再開した。

 

 

2010.1.17
(修正2010.6.12)
修正20120411

 

 

 

 

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