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エターナルブレイド 第6話

エターナルブレイド 第六話 『闘技』 20120326(最終更新20180605)

 


 メグが入室した場所は、どうやら彼女の寮の部屋のようだ。左右にベッドがあり、二人一組で一部屋が与えられているというのは、第二学生と同じらしい。右側のベッドの端に座り、メグは「どうぞ」と向かい側のベッドへ座るよう促してきた。

 

「同室の子は補習授業を受けているので、遠慮なくおかけください。」

 

 にこにこと笑うメグに苦笑を返して私はベッドへ腰掛けた。しかし、なぜ彼女は私を招待してくれたのだろう。得体の知れない外国人が突然現れ、しかも優秀な白服生徒たちに囲まれているため、どんな要人だろうと思われたのだろうか。私に声をかけ、さらに他の人に邪魔をされないように個室へ連れてきたということは、なにかしら聞きたいことがあるのだろうというのは分かった。メグは私を眺め、その赤い頬を少しだけ掻いた。

 

「ナコさんと仰るのですよね。ラ・ユースニアや、ラ・ルースがそう呼称していらしたので、知っています。」

 

 先ほどからとても嬉しそうにしているメグ。なにをそんなにも笑顔になることがあるのか、不思議に感じるも、彼女の笑みにつられて、私もなんだか心が穏やかになった。

 

「メグは私の何を知りたい? 答えられる範囲は狭いけど、教えられることは出来るだけ教えるよ。」

 

 私の名を知っていることについては好都合なので、あえてそのまま会話を続けた。メグは目を輝かせて、ベッドから立ち上がったと思ったら、いきなり私の手を握ってきた。驚いて軽く後ろへ仰け反るがそれは失敗だった。バランスを崩した私は背中からベッドへ沈み、メグに乗り掛かられてしまった。

 

「ナコさんのこの石……『フューテナス』ですよね。『時の調律者』候補の証。」

 

 気づいたら、メグがその石をつまんでいた。アスドワさんから預かった大切な石。いつも身につけていろと言われている石。他人に触れさせるなとは言われていないが、私は咄嗟にメグの手ごと掴んでいた。

 

「あ、……ごめん。でも、あまり石には触れないで欲しいんだ。」

 

 きょとんとしたメグに謝り、私は目を逸らす。メグは少し俯いて、「ごめんなさい」と述べると、ようやく私の上から離れた。私は姿勢を起こして、隣に座るメグを見る。彼女は悪いことをしたと感じているのか、その顔から笑みは失せていた。

 

「これ、知ってるんだね。誰かから聞いたの?」

 

 怒ってはいないことをアピールするために出来るだけ優しく訊いてみた。メグは静かに答える。

 

「いえ。魔法媒体物質にしては見ない形と色でしたから、文献で調べたのです。……決して、誓って、石を盗ろうとしたのではありません。ごめんなさい、ナコさん。」

 

 今にも泣きそうなメグにどうしたらいいか分からず、私は焦った。落ち込んだ人を励ますには、確か……。
 ずっと前に自分が落ち込んだとき、中学校の友達にしてもらったことを思い出す。メグに向き直り、私は腕をのばし、彼女の華奢なその身をぎゅっと抱きしめた。

 

「怒ってないし、責めてもいないよ。メグはいい人だね。大丈夫だよ。」

 

 友達の受け売りに過ぎなかったけど、たぶん対処法としては間違ってないはず。抱きしめたメグは暖かくて、女の子特有のいい匂いがした。しばらく黙っていたメグは、じきに私の腕に手をおいて離れた。目元は少し赤くなっていて、声を出さずに泣いていたことを知った。

 

「ナコさんも、良いかたですね。とても心地良い安心感がありました。ありがとう。」

 

 可愛らしい笑顔をくれた。私も嬉しかった。
 それからしばらくはメグの質問に答えていたが、彼女はこれから授業時間だということで私は彼女と別れた。別れ際に、また話したいと言ってくれたのが、とても嬉しくて――私は明日、もしかしたら日本に帰れるかもしれないことをすっかり失念して、彼女と再会できることを約束した。

 

「ナコ、どこに行っていたんだ。探したよ。」

 

 自室へ入ろうとしたとき、通路の先からウィルが走ってきた。軽く息を切らしている。私はそこで『学院内での単独行動原則禁止』を言い渡されていたことを思い出した。

 

「ごめんなさい。黒服生徒の子と話をしていて。」
「黒服の生徒と? ……まあ、無事ならそれでいいけど。これから闘技の実戦授業があるんだ。見学に来るだろう?」

 

 私が黒服生徒と話したと言うと、ウィルは少し意外そうにしたが、特に話題を広げることはなかった。それより闘技の実戦が見られるというので、私はすぐにウィルについて行った。魔法使い特有の格闘技。――『特殊装甲衣』と呼ばれる衣装を身にまとい、互いの力を尽くして勝敗を決する競技――文献では一度調べたことはあるが、どういったものであるかは想像でしか知らない。実際に立ち会うのはこれが初めてだった。一体どんな感じなのだろう。胸の高鳴りは増すばかりだ。

 

「闘技広場はこの先だよ。今日は第二学生と第一学生の合同演習の日だから、楽しみにしていて。」

 

 なんとも楽しげな声色だ。ウィルに続いて外へ出ると、そこには大勢の生徒たちがいた。大理石のような石が敷かれた広大な地面。野球場くらいの広さはあるだろう。この学院の生徒総数は80人で、うち30人が第二学生、残り50人は第一学生。どうやら学年ごとに纏まっているようで、向かって右側が第二学生、左側に第一学生が居るようだ。

 

「ラ・チーター、ご苦労様。ナコ様、こちらで見学をお願いします。」

 

 アスドワさんだ。初めて会ったときと変わらない厳格な雰囲気だが、彼女もまた闘技を待ち望むようになんだか表情が柔らかかった。
 ウィルは第二学生の集まるほうへ行ってしまった。隣に立つアスドワさんは、私に椅子を用意してくれた。

 

「ナコ様。白服の生徒たちからは、期待通りのご指導を受けられていますか?」
「はい。私が知らないことを、分かりやすく丁寧に教えてくれます。」
「そう。でしたら良いのです。」

 

 第二学生の集団を眺めるアスドワさんの目は、とても優しかった。
 黒いローブを纏う教授らしき人が二人、それぞれ各学年のほうへ向かっていく。がやがやしていた生徒たちは間もなく静かになり、第二学生のほうから一人、生徒が広場の中央へ進み出た。ウィルだ。

 

「ウィリー・チーターは当学院生徒唯一の『流星段位』保持者なのです。今回は先達者のようですね。」

 

 先達者とは闘技の団体戦におけるトップバッターの事。この闘技というスポーツは、団体戦と個人戦があり、また柔道や空手などと同じように、段位がある。確か『流星段』とは最上位から二番目あたりの段のことだ。ウィルが闘技有段者というのは今初めて知った。しかし以前、第一学生にして白服のリーヤは『闘技において学院一』とロザリーが言っていたのを思い出す。リーヤもまた有段者なのだろうか。
 第一学生の集団の中からようやく一人進み出てきた。それはメグだった。黒い制服を纏うメグは堂々としていて、白服のウィルの立つほうへ臆することなく向かっている。

 

「メグ・ブレンスリー。彼女は成績優秀者で、次期魔導士候補生の一人なのです。闘技においての実力はウィリー・チーターと互角であると言われています。」

 

 アスドワさんの言葉に私は口を閉じ忘れてしまった。まさか彼女がそんなにも優秀な生徒だったなんて。しかしどうりで落ち着いていると思った。私の持つ石についても『色や形が違う』と気づいていたし(遠目から見てすぐに分かるほど、そこまで違いなどないはずなのに)、なにより『時の調律者』候補だということも知っていた。私のことは白服生徒たちも他言は一切していないのに、彼女は私のことを一目見たときから分かったと言っていたのだ。
 ――『フューテナス』と呼ばれるこの石は、本来は魔法を使えない者が持つことで、魔法者特有の『魔力』というものを疑似的に纏わせる役割を持つらしい。熟練した魔法使いの目はごまかせないが、まだ経験の浅い学生や、にわか魔法使いと呼ばれている魔法者《フェディラー》などは、この石が生み出す疑似的魔力を、偽物と見抜くことは出来ないらしい。現にこの学院に在学している黒服の生徒たちは、魔法者ですらない私のことを見ても怪訝な顔をしたことは一度もない(見慣れない人がいるとは思われているだろうが)。接触があまりないことも原因しているように思えるものの、普通、魔法を使えない者が魔法学院内をうろうろしていたら、不審に思って内緒話をするだろう。それというのも、私には分からないのだけど、魔法を使える人はその魔力というものを感覚的に察し捉えることが出来るので、魔法を使える者か、あるいは魔法を使えない者かを魔力の有無で判断しているのだという。
 しかし、それにしても、この石の本来の利用法を考えると、『時の調律者』候補の証として所持させるのは、なんだか変に感じた。それはまるで……ただの憶測に過ぎないし、実例があまりにも居なさすぎるから仮説ですらないのだけど……魔法を使えない者が『時の調律者』になるということだろうか。私は漠然とそんなふうに考えた。

 

「刮目してご覧下さい、ナコ様。魔法使用者特有の伝統ある闘技を。」

 

 アスドワさんの静かな声に、私はハッとした。
 向かいあうウィルとメグは、遠目から見ても互いに威嚇するような雰囲気を纏っている。その威圧的な空気は見学をする私にさえ緊張感を与えるようだった。
 先に動いたのはウィルだ。

 

「フレン・ライア。」

 

 力強いかけ声と共に、彼女は左腕を、空気を薙ぐように振り払った。その手首にある飾り腕輪が揺れる。直後、私は自分の目が狂ったかと思った。
 ウィルの着用する制服、そして、足下のブーツさえも(まるでパネルが裏返るように)その色や形を変化させていった。見間違いでなければ彼女の腕輪から電流が溢れているようだ。全身をその電流が纏い、あっという間にその容姿は制服の面影を残すことなく、全く別の衣装になっていた。

 

「ヴェラ・エストニキ。」

 

 メグの声が響く。叫び声と共に周囲に突如として水の膜が張り巡らされ、同時に無数の水の玉が発生した。瞬きをしない間に彼女は津波にのまれていた。いくつもの小さな渦潮があちらこちらに渦巻いて、水面を手のひらで叩くような破裂音ののちに、あれだけの大量の水は消失した。気づけばメグもまた黒の制服ではない衣装を纏っていて、一切水に濡れた様子がない。
 『特殊装甲衣』の意味を、私は理解した。

 

「ラ・チーターは『雷』を、ラ・ブレンスリーは『水』を専攻としています。本来ならば互いに干渉のない属同士ですが、だからこそ一騎打ちとなる時はその戦闘形態に個性が最もあらわれるのです。」

 

 アスドワさんの声は今までにないくらい明るく、胸を踊らせているのがよく分かった。煌びやかな『特殊装甲衣』に身を包んだウィルとメグ。二人の雰囲気は変姿前と今では、がらりと変わっていた。ピリピリとした緊張感が肌に纏わりつくみたいだった。

 なにかの楽器だろうか、高い音がどこからか響いた直後だった。
 ウィルとメグが地を蹴り、気づけば上空で戦闘をしていた。拳も脚も全てを使い、プロレスだとかボクシングだとか、ああいう格闘技をもっと激しくさせたような、そんな印象でぶつかり合う……だからこそ、女の子二人が素早い動きで互いを負かそうとしている様が、なんともいえない気持ちにさせた。

 

「ど、どうして止めないんです?」

 

 あまりにも怖かった。ウィルは電撃を放ってそれをメグに当てようとするし、メグもまた水をウィルへぶつけようとしている。空手や合気道などには詳しくないが、彼女たちの激しい拳の応酬、遣り合いは、それらの格闘技より遙かに危険さを帯びているように思った。それを見ている私には、恐怖しか感じない。
 アスドワさんは私のほうへ驚いた顔を向けた。まるで信じられないと目が訴えているみたいだった。

 

「止めさせるなど……ナコ様、あなたの世界にも似た競技は存在するでしょう。誇りある伝統的な闘技という試合を止めさせるわけにはいきません。」

 

 ボクシングなどのことを知っているのか。アスドワさんの言葉に私は黙った。確かに殴り合いをするスポーツは存在する。でもそれは鍛えられた大人の男性がやるイメージしかない。メグたちのような女の子が、あんな危ない闘い方をしているのを黙って見てるなんて、耐えられない。

 

2010.2.10
(修正2010.6.12)
修正20120411

 

 

 

第7話

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