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エターナルブレイド 閑話休題1

エターナルブレイド 閑話休題 『ふたりの姫君』 20120412(最終更新20180605)

 

 

 自室のベッド上で、エレナは目を覚ました。つい先刻まで『時の調律者』候補の相宮奈々子と話していたことを、目覚めたと同時に、そして自身が、とても落胆して大泣きをしたことを、ふわりとした感覚の中で一緒に思い出した。

 

『エレナ姫様。あなたも、もっと自分の願いや望みを、言ってみてください』

 

 記憶の中で、彼女の言葉が反芻する。エレナは机上へ視線をやって、重たい身体を起こした。そこの上にある書物を読むためだ。それは、自分に与えられた運命を司る紙に違いなく、これまで逃げ続けてきた代物でもある。――エツィニヤ皇国の使者からさずけられた、公式文書。中身は一度も開けたことがなかったが、何が『語られる』のかなど、想像に難くなかった。
 真っ白で華奢なその腕をそっと伸ばし、書物にかけられている魔法を解く。途端に、書物から薄い青色の光が溢れて、小人のような映像が中空に投影された。顔立ちの整った、凛々しく果敢な印象のある青年が映し出される。彼こそが、エツィニヤ皇国の第一皇子なのだろう。エレナはそれを知っていた。

 

『フレイルライズ王国第二王女エレナ・シルヴィア・フレイルライズ様。この書簡を貴方が読むことを、此度こそ確信を持ち、申し上げます』

 

 見目の整った、凛々しく強いまなざしをする青年。投影される皇子は、そう述べてから一礼した。彼は、これまでの複数回にも渡る書簡授与をエレナが放棄していたことを知っているような口ぶりで、語り始める。

 

『余こそは、次期エツィニヤを統べる皇となるロキと申します。此度の書簡解放、恐悦至極に存じます。エレナ姫君との婚約が果たされるその日まで、待ち続けておりました。余の国、そして貴殿の国のため、婚約を果たしてくださり、まことの幸福を得られたと感じ入っております』

 

 皇子はその後も、エレナへ婚約の礼を述べ続けた。一礼し、愛のことばを告げると、映像はそこで終わりとなった。台本でも用意していたのかと思えるほどの饒舌ぶりであったが、その言葉すべてに嘘や偽りや世辞が一切感じられなかったことが、エレナの心を痛ませた。こんなに親切で丁寧かつ礼儀の伴った人の書を、これまで一度も観たことがなかったことに対する罪悪感からだろう。
 書を畳んだエレナは、筆をとり、それから自分自身の言葉を綴り始める。これまで一度として書を読んでいなかったことに対する謝罪と、婚約を受ける旨、そして今後のことを、自分で考えた言葉として書き連ねていく。

 

「クラナダ、いますか」

 

 自室の扉へ向かい、エレナがそう呼んだ。すると、ずっと外で待機していた聖竜騎士団の頭領でありエレナの身辺警護騎士兵≪ダリアロッサ≫をも務める化獣人≪セルヴェスト≫が戸を一度叩き入室してきた。

 

「ここに。姫君」
「ええ。これを、聖ハイアル魔法専修学院へ届けて欲しいのですが……あの、ナナコ様へ」
「承知仕りました。確かに」

 

 両手にて書を受け取ると、頭領クラナダは一礼し、出ていった。それを見届けてから、エレナは次の行動へ移った。
 窓際の台に置かれている花は、まだ蕾のままだ。エレナは、その花にそっと水をかけて、愛しき相手を思い浮かべながら、花が咲くのを待ち望んでいる。外からの眩しい光が、きらきらとその花の葉を照らし出す。エレナはふっと微笑み、静かに静かに部屋を出て行った。

 

 祈りの間で、祈りを捧げているのは黒き姫君、セレス・クロウラ・フレイルライズその人だった。普段であればこのような祈りなど捧げたりはしないのに、なんだか今だけは、祈りを捧げたくなった。ただなんとなく、そうしたかったのだった。
 城の通路でセレスは聖竜騎士団の頭領クラナダとすれ違う。先刻のことについて、セレスも自身の耳で聞いていたことを、彼女へ言葉をかける。

 

「あの子、何かあったの?」

 

 言葉に出さずとも、頭領クラナダには分かったようだ。それもそう、セレスは自身の妹のことを、名で呼んだことがなかった。幼い頃から、あんまり仲が良いとは言えない関係だったのだ。それでもやはり、あの品性のない泣き声を聞いたからには、多少なりと心配になるのが人の性だろう。
 跪いて、姫よりも低い位置にて頭領クラナダは告げる。

 

「参時の間にて、『時の調律者』候補のナナコ氏より、言葉を受けての出来事でございます。恐らくは、これまでの姫君にかかる庄に耐えかねての結果かと」
「そう。そういうことね。……いいわ。行きなさい」
「は。失礼いたします」

 

 セレスは顎に手をやり、それから気まぐれに城の庭園へ赴く。庭師により手入れをされた美しい庭園にて、赤い花が咲き乱れている。セレスは赤は嫌いではなかった。だから、庭園の椅子に座ってみたりした。しかし、今日は、特に今は落ち着かない。なぜなのか、セレスには分かっていた。半の血の繋がりを持つ妹のことが、なんとなく、心にあった。心配、という言葉がしっくりくる。けれど、それを認めたくなくて、セレスは赤い花を悪戯に引き抜いて、地面へ叩きつける。音もなく赤い花は、ただそこに落ちた。固い拳を握りしめて、セレスは庭園を後にする。


 謁見の間には誰もいない。あんまりにも静かな空間で、セレスははしたないことにごろりと床に寝転んだ。それも両手を投げ出して、十字の格好で。
 ふっと目を閉じる。眼前に光景が現れた。それは相宮奈々子と同じ『未来可視』の力。ずっと以前から、その力が発現していたセレスには、このようにただ目を瞑るだけで容易に『未来可視』が出来るのだった。
 セレスが視る未来は、毎回異なっている。先刻会った奈々子のことも、『未来可視』の力にて、すでに何度も『会っていた』。未来は、変わらない。変えられない。それをセレスは、これまで視てきた未来にて、すでに立証していた。他にそれを知る人は、神官と、実の父であるフレイルライズ王の二人だけ。頭領クラナダにだって、王家直轄顧問療癒士のマリアにだって、言ったことはない。前述の二人には、逐一報告していた。どんな未来を視たのか、すべて素直に話していた。


 目を閉じる間ずっと、流れ続ける未来の映像。セレスは見慣れない城にいた。いや、宮殿というのが正しいかもしれない。宮殿には例のもう一人の『時の調律者』候補の奈々子と、見たことのない青年がいた。二人は何かの話しをしているらしい。傍には、同じく見たことのない化獣人の少女もいる。誰なのかなど考えるだけ無駄だった。なにせ、セレスは今後一切、奈々子との接触を避けるのだから。それは、神官に言われたから。『時の調律者』候補を、奈々子にすべて委ねるのならば、今後の接触は危険だと言われたのだった。

 

「セレス。品格を疑うぞ。起きなさい」

 

 愛しき父君の声が、セレスの瞼を開かせる。そして、セレスはすくっと起き上がり、

 

「お父様。あの方の未来を視ましたわ」

 

 そう報告するのだった。

 

修正20120413

 

 

 

第10話

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