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エターナルブレイド 第12話

エターナルブレイド 第十ニ話 『フレイルライズ帰還編』『再会と命令』 20120418修正20120424(最終更新20180605)

 

 

 フレイルライズの空気をこうして吸うのは久しぶりに感じられた。
 『化獣人≪セルヴェスト≫』のカーミラを伴って、ルラと私は聖ハイアル魔法専修学院へと戻ってきた。あんなに色々な出来事を体験したはずなのに、フレイルライズの時の流れはそのどの国よりも穏やからしく、わずか三日の経験に過ぎなかったらしい。とはいえ、極秘任務ということでルラと旅をしてきた私のことを、学院の白服生徒(魔導士候補者)たちが心配していたということを、帰還後にはじめて聞かされた。
 談話室ではなく、私に与えられた自室は満員御礼状態で、私の行方と身の無事を心配してくれていた白服生徒たちが詰めかけてきてくれた。その中の一人、ウィルは、私たちとともに学院の門をくぐってきたカーミラに興味津々だった。

 

「『化獣人』をこんなに間近で見たのははじめてなんだ。この子は一体どうしてナコたちと一緒なんだい?」
「それは、ウェラ・マルシェで……」
「ナコ」

 

 ウィルの何気ない言葉に私はつい極秘任務のことを口にしそうになったが、ルラから名前を呼ばれて、はっとして口をつぐんだ。しかし、一度出てしまった『神秘の桃源郷』のことについて、白服生徒たちに教えてしまい、オーランやコロナまでも「何があったんだ?」と訊ねてくることになってしまった。
 ルラが見かねて、極秘事項だと冷静に返すと、彼らはさすが『魔導士』候補なだけあり、すぐに理解してくれたみたいで、それ以上追求してこなかった。
 しかし、その彼らの気遣いにまるで気づかずに、正直に言葉を発したのは、他でもなく、あの子だった。

 

「あたし、は、ダグラスの、使い魔だった。ナコと友達、なったから、ついてきた」
「ダグラス!?」
「賢者様のクヌム薬草師様のお弟子様?」
「あら。この子には、黙秘の術をかけないといけないかもね」

 

 『賢録古書』に記載されている『賢者様』の弟子の名にはさすがに驚いた様子を見せる白服生徒たち。それからのんびりと、微笑ましい様子でミシェルが魔法を使用してカーミラの口を閉ざそうと提案したときだった。
 カーミラはその不穏に気づいたのか、即座に私の後ろに隠れ、じっと不安げに白服生徒たちを見た。ミシェルの言葉は本気なのか冗談なのかわからなかったが、カーミラには本気と捉えられたらしい。その行動の素早さにか、場の空気は少し和んで、それからルラが口を開いた。

 

「まあ。仕方ない。少しだけ教えておこう。カーミラは確かにダグラス氏の使い魔だった。けれど今はナコの友達で、守護役をかってくれている存在だ。ただそれだけのこと。これ以上は、すまないが口を閉ざさせてもらう」
「分かってる。『時者』だものね、二人は。」
「わたしたちもわきまえているから。これ以上のことは聞かないよ。約束しよう」

 

 アクセスに続いてウィルがそのように言ってくれると、他のみんなも頷いてくれた。物わかりの良い、本当に賢い人たちだ。私は少し安心して、それから背中に張り付いているカーミラに声をかける。

 

「もう大丈夫だよ。みんな、優しいから大丈夫」
「むう。分かった。お前ら、いい奴、だな」

 

 カーミラが何やらため息をついてそろそろと私の影から出てきた。その物言いがなんとなく面白く感じたのは私だけじゃなかったみたいで、みんなくすくすと笑う。
 場が一旦落ち着いたところで、ルラが言った。

 

「さて。顔見せの時間は終わりだ。ナコ、ついてきてくれるか」
「どうしたの?」

 

 私はきょとんとしてしまう。すると、ルラは少し困った笑みを浮かべた。どうやら、白服生徒たちの前では答えられないことだったようだ。私はすぐにそれを理解して、大人しくルラについていくことにした。もちろん、カーミラも当たり前みたいに私の後をついてきてくれた。
 白服生徒たちと別れてから、私とルラとカーミラは学院の離れへと赴いていた。ここは生徒たちも滅多に近づかない(というより、近づくなと言われているのだとか)、儀式用の建物だそうだ。学院の中もさることながら、ここの建物もまた、とても年季がはいっていて、とても神聖な場所のように感じられた。例えるなら、教会のようなところだった。

 

「『賢者様』に召して頂く儀式は、ここで行なって、それから『賢録古書』へ帰還させるんだ。ナコに少々手伝ってもらわないといけない。カーミラは、そこで待機していてくれるか」
「むう。分かった」

 

 建物に入る前にルラはそう言って、カーミラを残した。それから、私とルラは建物内部へと進入する。外観以上に中は古くとても神聖な空気が漂っていた。家具らしきものはなにもない。代わりに、私がこの世界に来て間もなく連れてこられたあの部屋の地面とは異なる魔方陣が床に描かれてあり、それは怪しくほんのりと緑色の光を帯びているようにみえた。ここの天上はお城の壁と同じように、外の景色が透けて見えていて、室内自体はとても明るかった。
 私に魔方陣の中央へ行くように指示してから、ルラが捕らえてきた『賢者様』の『エターナルブレイズ≪魔法具現物質≫』を小瓶から取り出した。私はまた、あの時と同じように足が床についていない違和感に襲われながらも、ルラの様子を眺めていた。

 

「クゼラ・ル・アンブラ」

 

 ルラがゆっくりと呪文を唱える。確実に、真剣に。私は全身に強い熱を感じた。地面に描かれている魔方陣が一瞬真っ白に輝くと、私は自分の身体が宙に浮いたのを確認した。怖かったが、声は出せなかった。今、集中を途切れさせてはいけないんだ。それを私は本能的に理解していた。

 

「エルバ・ドラン様、トリュノ・アグン様、ウィシュ・フォルクローネ様。三柱よ、今ここに、その御姿を現し、御力を消失されたし」

 

 いつのまにかルラが『特殊装甲衣』へと成りかわっていて、それから彼女の言葉の直後に、私はまた、幻を見た。……いや、幻なのか現実なのか、どちらかの判断は出来かねた。しかし、確実に私の前に、三人の人間が現れたのを『見た』。


 一人は白髪に白く長いヒゲを生やしたお爺さんで、一人は年若く見える黒い長髪のハンサムな青年、そしてもう一人は年若い、金髪の女性だった。三人とも、目を閉じていたけれど、ふと私へ向くと、口パクで何かを伝えてきた。


 お爺さんは「もう一度だけ、あの頃の血を」と。青年は「我が悲願をどうか」と。女性は「愛していた者たちに祝福と安堵を」と。なぜだか私には、それが分かっていた。
 私は無意識のうちに、右手を彼らへ向けていた。そうしたいわけじゃなかったのに、そうっと。持ち上げていた。お爺さんのほうに向けて、それをすると、彼は目を輝かせて、それから大きく両手を広げ、天へと昇っていく。青年もまた、穏やかな笑みをたたえ、目をつむり、ありがとう、と口を動かして天へと昇り、女性のほうへ手を向ければ、彼女は幸せそうな微笑を見せて、それから、同じように天へと向かっていった。


 ――彼らの願いを叶えたとき。彼らは安住の地へと向かわん。


 そのように声が聞こえた気がした。その声は、紛れも無く王様の声だった。二人のお姫様のお父さんにあたる、あの王様の声。彼の声は、安心をくれるみたいに優しかった。ふと、私は目を閉じた。暖かい。とっても心地好い。視界が明滅を繰り返して、また、あの時のように景色をみる。

 

 誰かの視点だ。これは……神官のような人から、なにか魔法をかけてもらっているみたいだ。鼓動が速い。とっても、とっても。そして、何か焦りを抱いているみたいだ。


 明滅すると、今度はまた別の人の目線だった。王様を見ている。王様は、たくさんの事を一度にすべてこなしている。膨大な量の書類だった。もしかして、全部を処理しないといけないのかな。それもそうだろう。だって、この国では王が絶対唯一の存在だ。私はそれを文献から読み解いていたから知っている。この国の王様は大変なんだ。寝る間もなく、様々な出来事を一つずつ確実に処理していくんだ。フレイルライズはそういう国政なんだ……。


 明滅。私が普段見ているよりも少し低い目線だった。見たことのない子ども……らしき人。その髪は赤く、手には巨大な鎌を持っている。死神? いや、そんなおどろおどろしい雰囲気はない。その赤い髪の人は小学生くらいの年齢だ。けれど、とても凛としていて、雄々しい雰囲気がある。その人は何かを語らっている。畑や田んぼが景色の中に映される。見たことのない場所だ。外国だろうか。


 また明滅をする。空に浮いている。恐怖心はない。けれど代わりに、とても悲しい気持ちがあった。大好きな人と戦わなければならない、そんなことを私は思っていた。いや、この目を借りている相手が、そう思っているのだろうか。私には明確なことは分からない。ただ、その景色全てが、今後起こりうるかもしれない未来なんだ。それだけ、分かった。

 

「ナコ。目を開けて」

 

 ふと、ルラの声が聞こえて、私は目を覚ます。今までのように倒れたりせず、立ったままだったことにまず驚いた。魔方陣の光はまた淡い緑色に戻っていて、儀式が終了したことを知らせるように、一瞬だけ赤色に瞬いた。
 ふわふわとする足元に注意しながら、私はルラの元へ帰る。無事終了したと、そう言ってくれた。私は安堵したが、同時に、少し疲れていた。未来可視の力が発現したからだろうと、私はすぐに直感した。

 

「『賢者様』は無事にその力を解き放ってくれた。ナコ、ありがとう。疲れたろう、後のことはわたしに任せて。カーミラと部屋へ戻っていて」

 

 ルラの言葉にしたがって、私はカーミラと学院の部屋へ戻ることにする。きっとルラはいまから『賢録古書』に『賢者様』を戻しにいくことだろう。封印には『時の調律者』の力がいるが、儀式さえ済ませればあとは『時の調停者』の役割。これも、文献による知識だった。
 カーミラは私を気遣ってくれてるみたいに、そっと寄り添って歩いてくれた。本当に妹が出来たみたいで、私は嬉しくて笑う。カーミラも元気に歯を見せてくれた。
 自室に戻ると、ウィルとミシェルが居た。二人はやはり私のことが気掛かりで、待っていてくれたのだと、ミシェルがそう言ってくれた。
 極秘任務といっても、きっともう白服生徒たちはその内容を察しているのだろう。私は彼女たちから眠ることを勧められたため、彼女たちに見守られながらベッドへ入った。
 それから、ふとカーミラを見て思い出した。

 

「あの、二人にお願いがあるんだけど」
「なにかな? 軽食でもいるかい?」

 

 私の言葉にウィルが心配そうな顔で訊ねてきてくれた。お腹はすいていなかったので、それの返事はノーにして、それから切り出す。

 

「カーミラの衣装を作ってあげてほしいの。その、今着ているのは、ルラが見繕ってくれたものなんだけど、素材が寝具用の布だから」
「そっか。分かったわ。ウィル、着衣用の布の手配をしましょうか。衣装の製作はウィルのほうが上手なのよ」

 

 ミシェルが嬉しそうに笑い、それから魔法であっという間に布を呼び寄せた。何度見ても、この世界の魔法は面白い。というか、魔法という現象そのものが、とっても興味深い。私は、ウィルがカーミラのための衣装を一瞬で製作するのを見届けて、お礼を言ってから、眠りについた。


 寝てから、夢を見た。
 未来可視じゃなくって、夢。これは夢なんだと、私には分かった。だって、ゆきちゃんが私と手を繋いでいるんだもん。私は、私目線じゃなくて、神様視点で『私』とゆきちゃんを見ている。いつも一緒だった、大好きなゆきちゃん。今、どうしているかな。心配かけているかな。涙はもう出ない。だって、これは夢だから。夢だけど、ゆきちゃんと一緒にいられることが嬉しくって、私は幸せを感じた。ふわふわとした心地の中で、私は仲睦まじい『私』とゆきちゃんを見ていた。


 陽の眩さを感じて、私が目を開くと、椅子に座ってうとうととするカーミラがいた。その衣装は、先ほどウィルが見繕ってくれたもので、ワンピースじゃなくって、上下がちゃんと分かれたものになっていた。ミシェルもウィルもいない。ルラもいない。ただ、カーミラがうたた寝をしているだけ。私はもう、不安はなにもなかった。怖いものはなくなっていた。一人じゃない、ただそれだけで、勇気がついた。とっても、心強かった。学院の中でも、室内は安全であることを知っていたからだろうか。それとも、単にひとりぼっちが嫌いだったから?

 ……あの日、ルラをビルの屋上で見たあの入試の日も、本当は一人きりが寂しくて、空を見たんだ。それははっきり覚えていた。私は一人じゃ何も出来ない。……いや、やらないタイプだったから。だから、いまこうしてカーミラが傍にいてくれることが、何よりも嬉しかった。

 

「ん。起きたか。気分、いいか?」

 

 私が熱心に見つめていたからか、カーミラが目を覚ましてしまった。私は、大丈夫と言うと、身体をおこして、それから、カーミラの頭をなでる。とても気持ちよさそうに笑うカーミラ。やっぱり、お友達というより、妹的な感覚だな、と改めて思った。
 カーミラは意外にも饒舌な子だった。それからしばらくは、カーミラの語るダグラスさんの出来事を聴いていた。しばらくして、ドアベルが来客を知らせてくれた。

 

『リリーン! 第二学生、クレナ・ミシェル・ユースニア! ウィリー・チーター!』

 

 二人が現れて、それから、私は軽い食事をとった。食パンよりも甘い桃パンと、ヤギミルク、それに野菜が盛りだくさんのスープ。そんなに量はなかったけれど、私は満腹になった。
 食事のあとに私はウィルとミシェルに改めて、カーミラの衣装のお礼をし、つかの間四人で談笑した。穏やかな時間の流れがたまらなく幸せだった。そんな折に、また来客が現れた。しかし、私はその来客に心底驚くことになる。
 ドアベルが鳴いた。

 

『リリーン! ご来賓様、クラナダ氏!』

 

 くらな、だ? その名に一瞬聞き覚えがなくて、私は呆気にとられたが、ドアが開いてようやくその名が誰のものか知ることになった。
 エレナ姫の身辺警護を務め、なおかつ、聖竜騎士団の頭領をも務めるあの『化獣人』だった。なんで学院に来ているのか、私が訊ねるよりずっと早く、彼女は片膝をついて右手を胸の前へやるあの”敬礼”を行う。

 

「我が主、シルヴィア王女より、書簡を授かって参りました」
「しょかん?」
「は。のち、『時の調停者』候補のカーティス様とともに、同盟国エツィニヤ皇国へ飛脚していただきたく。よろしいでしょうか」

 

 書簡って、つまり、手紙のことだろうか? しかし、なぜ私がエレナ姫の命令を受けたのだろうか。私なんかよりも、クラナダさんが直接行ったほうが確実な気がするのに。
 私はそれを思惟しながらも、クラナダさんからその手紙をうけとった。魔法は何もかけられていないらしい。用事を済ませたらクラナダさんは世間話の暇もなく退室してしまった。事の成り行きを見ていたウィルが教えてくれた。

 

「直筆の、しかも婚姻相手のロキ皇子様宛てだね。婚姻を正式に承諾されたんだ!」

 

 ウィルがちょっと興奮気味に言うと、ミシェルとなにやら目をみかわしていた。何事かと私が見ていると、ミシェルが振り向いて言った。すっかり興奮した状態で、目をらんらんに輝かせている。

 

「王女様から直接命令を受けるなんて、ナコ、あなたってすごいわ! しかも直筆の婚姻承諾書の配達だなんて重要任務を! 王女様となにかあったの? そうでないと、こんなことって有り得ない!」
「なにか?」

 

 私は記憶を呼び覚ます。そういえば、エレナ姫様は言ってくれたっけ。名前――エレナ・シルヴィア・フレイルライズを覚えてくれたら、どこにいても繋がっていられると。あれは、公認のお友達になったという意味だったのかな。私はしかし、それ以外に思い当たる節がなかったので、そう思った。
 間もなくして、ルラが帰ってきてくれた。彼女は、なんだか興奮気味なミシェルとウィルに不思議そうな顔をしていた。

 

「ナコってば、わたしたちの知らないうちに、エレナ王女様とお友達になっていたの!」

 

 そう言って赤い顔をするミシェルに、ルラは何やら苦笑をした。それから、二人に退室を促し、ルラとカーミラと私の三人だけになる。
 ルラが言う。

 

「流れ星の情報が入ってきたんだ。場所は同盟国エツィニヤ皇国。ナコ、カーミラ、少し急ぐぞ」

 

 ルラは言葉の通り急いた様子だった。エツィニヤ皇国、って、王女様からお願いされたばかりの場所だ。まだ訪れたことのない新しい場所、どんなところなのだろう。不安と、そして期待が入り交じりながらも私はルラに従い、カーミラも伴って学院を後にした。


執筆2012018
修正2012019
20120422
修正20120501

 

 第13話

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