創作作品展示室

主にオリジナル小説が掲載してあります。

かげろうさん 第8話 『山の怪』~ぐっさんの体験~

第8話 『山の怪』~ぐっさんの体験~

 オカ板で『晴れのち晴れ』というHNを使い始めたのは、かれこれ五年前になる。オカルト好きが高じてコテハン(固定ハンドル)を使い始めた頃、巡回スレが比較的近かった『ホワロリ』ことギダちゃんと知り合ったのもこの頃だった。ギダちゃんと知り合う前に俺に唯一起きた怪異。それが、今の俺のオカルト精神を大きく変えた。
 それまでの俺はというと、不謹慎なレスやスレを見ても、どうせ釣りやネタだと思って笑っていた。身近であんなことが起きなければ、きっと今もギダちゃん寄りの思考のままだったに違いない。
 俺が体験した唯一の怪異は今から五年前。友人の中村という奴が実際に体験した、身の毛もよだつ話。
 中村は当時ツーリングが趣味で、よく大学を休んでは遠出していた。そんなことをしていたから、留年確定していたような、正直しょうもない男だったが、気さくで明るい中村は、学年問わず友人が多く居た。
 夏の日。中村は毎度の如く補講もサボり、ツーリングに出たときのことだ。突然の雨に、彼は仕方なくバイクと一緒に雨宿りをしていた。場所は山の中。当時、彼は暇つぶしにと俺とメールをしていた。彼はよほど暇だったのだろう。辺りを散策していたら、一本の獣道を見つけた。彼はハイテンションで実況をしてくれたことを今でも覚えている。
 以下、当時のメールの内容だ。

「やばい。面白い。行っても行ってもなんもでねー」
「看板発見。読めないけど。解読頼む」
「謎のフン発見。いのししかな?」
「靴発見。子どもの靴だ」
「村っぽいところに出た。廃村?人の気配なし」

 ここでメールがストップする。俺は当時バイトをしていて、休憩時間が終わったので仕事に戻った。その間に、えらい事態が起きた。
 バイトが終わり携帯を見れば、着信が数回、メールは三十件。何事かと思って確認したら全部中村からだった。時間を追うようにメールを確認すると、

「人居た。なんか怒鳴られた」
「やばい」
「やばう終われてれ」
「こども」
「たすけ」

 逃げながら実況する程度の余裕はあったらしい。俺はとりあえず携帯に電話をかけるも、中村は出なかった。俺は焦った。それもそうだ。メールは中途半端なところで途切れているし、着信はかれこれ三時間前になる。彼になにがあったのか、それが不安で俺は気が気ではなかった。
 その日の夜に中村とようやく連絡がついた。ファミレスで待ち合わせして、彼と会う。彼は青白い顔で、全身がぼろぼろだった。
 ファミレス内で話をうかがうと、彼はぽつりぽつりと話し始めた。

「集落で、じいさんに見つかったんだ。意味が分からんこと叫ばれて、追われた。途中で四人の子どもが出てきて、俺の腕引っ張ってこうとした。力が半端なくて怖かった。結局子どもに捕まって、三十人くらい人がいるとこに連れてかれた。時代が違った。着てる服とかみんなぼろぼろだし、村に電気なんてなかった。電波は繋がってたけど俺の携帯電源切れて使えなくなった。なんか意味分かんないこと言われて、怖くなって逃げたんだ。泥に足取られてコケた」

 青ざめて、中村はコーヒーを煽った。彼の言葉に少し疑問は残るが、嘘にも思えなかった。中村は嘘をつくような奴じゃないから、俺もその話を信じて、とりあえず彼に場所を尋ねた。隣の県の国道沿いだという。
 その週の休日に、俺は中村を連れてその付近までドライブに行った。彼の証言どおり、獣道があり、その先はずっと繋がっていた。中村は怯えて車で待機しているということになり、俺は携帯を手に獣道を歩いて行った。けれど、彼のいうような村には到着出来なかった。車で待機していた中村から着信があった。

「ケーサツ来た」

 運が悪かった。俺が停車したところは駐停車禁止の道だったのだ。仕方なく引き返して、俺は警察官に事情を話すと、警察官のお兄さんはなにか怪訝な顔をした。

「この辺りに集落なんてないですよ。地図見てみますか?」

 と、親切にも地図を持ってきてくれた。確かに彼が言う通り、地図上にはなにもなかった。中村はしかし引き下がらなかった。獣道を指差して、彼自身が体験したことを必死に訴える。けれど警察官はそれ以上は聞く耳を持たず、今回は厳重注意だけで済ましてくれた。見逃してもらった俺たちは無言のまま帰路に着く。
 すると、中村は呟いた。

「嘘じゃねーのに」
「分かってる。お前がそんな下らない嘘言うような奴じゃないことくらい知ってるよ」
「……カメラ持ってたら良かったんだがなあ」

 まだ諦めていないようだ。俺は苦笑し、再度同じことを言うも、彼も引かなかった。

「今度はカメラ持ってく」
「期待してるよ」

 それから日は経ち、夏休みも間もなく終わるという頃だった。
 その訃報は突然すぎた。
 中村が、事故を起こして死んだ。あまりに突然すぎて、俺は言葉を失った。彼はいつものようにツーリングに行っている途中で、トラックと衝突事故を起こしたのだった。
 中村の通夜はしめやかに行われた。俺が焼香を済ませると、彼の家族が来た。中村の母親だという。俺のことを知っていたのは、彼がよく俺のことを話題に出していたかららしい。それから、彼女はカメラを渡してきた。覚えず首を傾げると、彼女は涙ぐんで、

「生前、言っていました。何があってもこれをあなたに渡してくれって」
「中村が……?」

 まるで、自分の身に何かが起きることを予見していたような口ぶりだ。俺はカメラを写真屋に持ち込み、現像を待った。数時間後、受け取りに向かうと、写真屋の店主がなにか言い淀んだ。

「数枚ほど、問題がありまして……」

 俺はなんとなくピンときた。このカメラは、彼が最後に残してくれた証言だ。店主に無理をいい、その数枚も引き渡してもらった。俺は言葉を失くす。
 集落が映されてあった。その数枚以外にも、廃村のような崩れかけの家が並んでいる。そして、人なんて居ないような景色なのに、家屋の中にはおぼろげな人間が何人か映り込んでいた。――中村は、あの村に行って、証拠を持ち帰ろうとしたんだ。俺は理解した途端、泣き崩れた。
 そして、数十枚の写真のあと、最後の一枚。俺は目を疑った。トラックが迫るその一枚。ピンボケしているのに、鮮明に映される運転手。年寄りだ。しかも、装束はえらい古く、まるで……。
 この一件以来、俺は無闇に人を煽って無謀なことを促すような真似はしなくなった。オカルト好きなのに、凸などを嫌う理由はそこにあった。口うるさいオカンみたいだ、なんてオカ板で囁かれていることは知っているが、俺は彼らの無謀を阻止するレスをやめようとは思わなかった。たとえオカンと呼ばれてもいい、誰かが犠牲になることを止められるならば、どんなにウザがられてもいい。
 そうして誕生した『晴れのち晴れ』。オカ板のオカンという異名を持つもう一人の俺。中村が教えてくれた、無謀無茶を止める心。勇者を阻止する悪役でもあるが、それでも俺は自分の善意を持って、今日も勇者候補を阻止する。ウザいと言われても、やめることはしない。

「ぐっさん、またオカンしてるのかよぉ」

 好奇心が猫を殺したのだ。愚痴るギダちゃんに振り向いて、俺は小さく笑い、

「オカンをナメたらアカンで」

 なんて言うのだった。


第9話 『口裂け女』

wspcompany.hateblo.jp

 

 

Copyright © 2018 flowiron All rights reserved.