創作作品展示室

主にオリジナル小説が掲載してあります。

かげろうさん 第10話 『もう一つの怪異の代物』

第10話 『もう一つの怪異の代物』

「深くは聞けなかったけど、聞いてきたよ。心して聞くがいい」

 ガッキーさんが意気揚々と登場した。スマホにメモしていた内容を確認しながら、ガッキーさんは話し始める。

「あややんちの『怪異のお面』と、例の神社にある『怪異の代物』ね、対になっていたらしいの。つまり、神社にあるのは『怪異のお面』。実物は残念ながらだけど、見せてもらえなかった。でも、私の熱意に負けてちょっとだけ教えて貰った。別々のところに保管しているのは、その呪いの力が強いかららしい。対になっているその呪物を向かい合わせにすると、祟りが起きる……だから、別々の場所に隠したんだって。例の神社はほかにも呪物を取り扱うことで有名だからね、持ち込んだ人もその知名度の高い神社に預けたみたい。最近そのお面を公開したことはないけど、去年若い男性がしつこくしてきたから、負けて見せてしまったらしいよ」

 一息ついて、ガッキーさんはコーヒーを飲んだ。もしかして、その若い男性って、桐生和哉だろうか。『怪異のお面』という名称は、どちらにも通用するはずだ。例の桐生和哉は、曰くあるその両方のお面を見たのだろうか。なんだか胸の中がざわざわする。
 ガッキーさんがスマホを見ながら、続きを語る。

「私がその神社に『怪異のお面』があるって知った理由、言ってなかったよね。フレ掲じゃないオカルト系の掲示板の呪物関連のスレでね、噂ということで話題にあがってたんだ。見たら本当にヤバイお面があるんだって。住所とか名称はぼかされてたけど、ちょっと検索したらすぐ出てきたよ。だから今回凸ってみたわけだけど、やっぱ行動してみるもんだね。……ほんとにたまたまだったんだけどさ、取材してたときに来たんだよ。『怪異のお面』が見たいって人が」
「マジすか」
「ネットって怖いよねー。掲示板の情報に好奇心をくすぐられたんだろうね。実はその人と意気投合して連絡先交換しちゃったんだ」
「なんすかその急展開」
「よこしまな理由はないよ。先方もたまたま同じ掲示板見てたオカルト好きな人だっただけだし。それに期待を裏切るようで悪いけど、相手女の子だから」
「とうとうリアルに手ぇ出しちゃったんすかガッキーさん」
「だから違うって。だいたい相手の子は女子大生。私の守備範囲外だよ」
「JDとお友達になれるなんて羨ましいっすよ」

 ぐっさんが本気らしい言葉を言うと、ガッキーさんは苦笑をする。話が逸れたので咳を払い、ガッキーさんが仕切り直した。

「で、その子から聞いてみたら、面白いくらい情報出てきたんだ。『怪異のお面』の正体は昔の儀式に使われていた代物。生贄がかぶっていたのが『怪異のお面』。時代が変わって、使用されることもなくなったために神社や寺に持ち込まれた……それも掲示板で得た知識だったらしいけど、十分に納得できる情報だよね」
「いかにもあり得そうな話ですね」

 酒に口をつけてぐっさんが小声で言う。なるほど、儀式ときたか。ありがちなオカルト話だが、別段おかしなところもない。ただ引っかかるのは、これがさも事実であるかのように語られているところだ。推測にしては確信をついている気がする。誰にも真相なんて分からないはずなのに、えらくあっさりと型にはまった話に、なんとなく疑問が沸く。
 俺はそれを口にした。

「でも、持ち込んだ人にしか分からないはずの理由が、なんであたかも事実みたいに語られてるんすかね」
「珍しい話じゃないでしょ。誰にも真相が分からないなら、一番ありえそうな話を信じて、それを事実として扱うなんて、オカ板の伝承スレでもよくあるじゃん」

 ガッキーさんの言葉に、俺は釈然としなかったものの、今は納得するしかない。
 彼女が静かになると、場に静寂が訪れる。机上に放置してあるノートPCの機械音だけが室内に響いている。おもむろに動き、ぐっさんがノートPCに触れた。

「ガッキーさん、その掲示板のURL分かります?」
「検索したら出るよ。真実の鏡って検索してみて」

 手馴れた様子でぐっさんがタイピングをする。クリック音が響き、そのページに辿りついたようだ。俺もパソコンの画面を覗き見た。
 よくあるオカルト系の掲示板らしく、背景は暗く文字が読みづらい。フレッシュ掲示板に比べたらそこまでの賑わいはないようだったが、色々と興味深いスレッドが羅列してあった。ふと目についたスレッド名。俺はあっと思った。

「スレッド名『桐生和哉』か。桐生の話してるんだな、ここの奴らも」
「開いてくれるか?」
「ああ。……読みづらいな」

 暗い背景に文字色も暗いせいで目がちかちかする。ぐっさんの愚痴はもっともだった。俺はしかし、なんとか目をこらしてスレッドのレスを流し読みする。
 内容はオカ板とそこまで変わらなかった。桐生和哉が『怪異のお面』を見ていたこと、そのせいで呪われて事故に巻き込まれた可能性があること、『怪異のお面』を持ち込んだのは桐生和哉……なんだって?
 俺の疑問はぐっさんの疑問でもあったようだ。小さく「桐生が持ち込んだだと?」と呟くのが聞こえた。

「どういうことだ。なんでそんな情報知ってるんだ、こいつら」
「どうせ憶測だよ、真に受けないほうがいいよ。個人でやってる掲示板ほど真実みたいに語るから」
「ですね。それに、あややが言ってましたけど、『怪異のお面』が持ち込まれたのはあややが生まれる前の話ですから。桐生和哉が持ち込んだうんぬんってところに関してはガセで確定ですよ」

 以前聞いた話をしたら、ガッキーさんは「やっぱり」と呟く。どうやら、嘘を嘘と見抜けないと難しいのはどこの掲示板にいっても同じらしい。
 ガッキーさんの言葉のおかげで、その後のレスは半信半疑で読んでしまった。とは言っても、内容もほとんどオカ板と変わらなかったのでそこまで差し支えはなかった。
 ぐっさんが小さく溜め息をつく。

「桐生が『怪異のお面』に関わっていること自体は事実のようだな」
「怪しげな呪物に祟られて死んだなんて、それこそオカルト好きの中では英雄的扱いになるんだろうな。どこ見ても桐生を批判する言葉がない」
「とりあえず、この話はここで打ち切りとしよう。次の議題にしたい案件があるんだ」

 そう言ってぐっさんがニュースサイトを開いた。スクロールし、あるニュースを取り上げる。地方のニュースだが、俺はその地名を見てドキッとした。

「子どもたちが謎の感染症にかかってるんだ。……ギダちゃん、分かるよな?」
「……ああ。俺の実家のあるところだ」
「もしかしたら『かげろうさん』に繋がるかもしれないからな。ガッキーさん、これでいいっすかね?」
「異存はないよ」

 俺の実家があるところ。そこで発生した謎の感染症。無理なこじつけかもしれないが、僅かでも望みがあるならそれにすがるしかない。兄の仇を討つための希望の光が、薄ぼんやりと見えた気がした。


第11話 『スズメバチ症候群』

wspcompany.hateblo.jp

 

 

Copyright © 2018-2019 flowiron All rights reserved.