創作作品展示室

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園庭本ノ日 第一語 『芥と童の出会いがたり』

園庭本ノ日 第一語 『芥と童の出会いがたり』

 人の里より遠く彼方、この世の片隅にあるというその庭には、数多多様な『かみさま』がいた。それらには人の願いが込められた意思があり日々を穏やかに過ごしている。この物語のはじまりは、そのうち一柱、数多の″ゴミ″より出でし神が最高神とされる陽の神に召喚されるところから幕を開ける。

 ――のだが、こたび、もう一柱、新たに顕現した神、古代より人が意識せずともだいじだいじにしてきた想いが神格化された者。この者が生じたところより″かんがたり″をはじめよう。

 黒い髪に黒い瞳、その口はけれど伝承の語り草の減りとともに消失し、今は痕跡すらもなく、言葉を発することは出来ず。両の手もまた、伝承の減少とともに形失くし、長い袖の下にて密かなる。幼子の様相のままに、その者は沸いて生まれた。すべての生命の源、黄の桜舞い散りし″たもと″にて、その御姿現し、じきに意識を目覚めさすれば、幼子の目に黄なるその花弁、映り、翻れば無限を生み出す″いつき″あり。未だ自身を知らぬその者、なき指を伸ばし、鮮やかなる神木へと触れかけた。刹那である。

「その樹に触れてはなりません」

 幼子の耳に触れる音。鳴ったと覚えて今一度振り返れば、見慣れぬ光が溢れ、目を細める。まばゆき光に包まれたもう者、名を陽といい、庭の″管理人″を請ける者。様相はすべて潔白色。幼子は語らずとも、自身を守るため身を固くする。
 陽はそろりそろりと歩を進め、幼子の傍らまで参り、次に言葉を発した。

「これなるは、我らの根源たる神木。良いですか、遠くより眺める他は全てを許されぬ尊き存在なのです。……おや。よく見れば、そなたは……なるほど。生まれ落ちたばかりと。であれば、私の紹介を致しましょう。――私は陽、と申します。そして、そなたは、童神(わらわがみ)。人の望み数多致すところにて顕現せし新たなる神。まだ何も存知ないのでしょう。であるならば、教育係が必要ですね。……では、″彼″の神を呼びましょう」

 陽は微笑を手向け、黙したままの童へと″力″の一端を分け与えた。言葉を解することのできる通力である。のち、陽の傍らが光差し、一柱の神、降臨す。
 紫紺の衣に、衣よりも濃い髪の色。瞳の色もまた同じなり。これこそが、数多の″ゴミ″より出でし神、その名を芥(あくた)と申す者。人の里へたびたびお忍びにて舞い降りては、雑言吐き出しつつも清掃活動を行う献身的な神である。面倒見の良さからこうして幾度となく、新たなる神の世話を仰せつかることがあった。
 芥の目が陽へ向き、問いかける。

「呼びましたか、陽よ」

 無論、となおも喜色満面な陽は、芥へと事も無げに言い放つ。

「呼びましたとも。さて、童よ、これなるは芥。今よりそなたの″教育係″として、この者に付き従いなさい。清掃活動には口うるさいですが、有する知識は豊富なれば、きっとそなたも立派なる一柱へと成長できましょう」

 陽は童の頭を優溢るる手つきにてひと撫で。次いで芥を見遣り、続ける。

「ということで、この童の面倒を頼みましたよ、芥よ」
「……承知仕りました。陽よ」

 芥の返答に、陽はさぞ満足を覚え、そうしてその眩き姿を光の中へと隠した。状況を理解していない童はしかし、先刻与えられたもうた陽の力によりある程度、常識を叩きこまれたためか、芥を見つめるその眼は不安げであり、ともすれば拒絶をさせることを恐れているようにも見える。
 芥は胸の内では多少の面倒さを感じてはいるものの、とうに幾度も経験のあること。割り切ることは得意である。童へと向き直り、幼子を安心させるため笑みを見せる。

「陽の用命とあらば、断るわけには参りません。とはいえ、童でしたか。そなたも何も分からぬ身。であればこの芥、そなたの知識を今以上に増やすため、引き受けましょう。よろしくお願いしますね、童よ」

 つぶらなる瞳はじっと芥を見つめ、そうしたのち、小さく頷く。言葉を発せぬゆえに肯定や否定はこうして体を動かすことで行う、という知識は有しているらしい。それに恐らく、慣れてくれば神通力をこなし意思の疎通も容易になるときがくるだろう。

「良い子です。では、参りましょう。ひとまずは、そなたのねぐらとする住居ですね。私の住まいの一室となりますが、興味あらば遠慮することなく様々なものに触れ、学びなさい。清掃さえ忘れなければ何を散らかしても構いませんので」

 芥は穏やかにそのようなことを言う。童は再び、小さく頷く。右も左も知らぬという新たなる神を世話するのはいつぶりであろう。それさえ記憶に定かでないほど、ずいぶん昔に経験したのみである。とはいえ、世話をすること自体は慣れているため、さほどの問題でもなかった。

 こうして本ノ日の園庭に、また一柱、生まれ出で、この″神語(かんがたり)″は幕明けた。

 

 

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