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エターナルブレイド 第15話

エターナルブレイド 第十五話 『アストラ・レツィロ』20180730 加筆修正2019-2-5

 


 戦艦の甲板へと駆け付けたルラの視線の先に、信じられない景色が映る。あれは……紛れもない、竜種の群れである。しかしあれらの竜種はエツィニヤ(ここ)には棲息していないはず。……否、先刻の大蛇もそうであったが、恐らくこれも『賢者様』の悪効果によるものかもしれない。影響は恐らく小さいものではなく、それこそこのエツィニヤのみならず、周辺他国にも及んでいるのだろう。そしてあれらの竜種、もしも『賢者様』による≪支配≫が行われているのなら、狙いは間違いなく『時の調律者』たるナコだろう。
 ただ、――ルラは米神に冷や汗が伝うのを自覚する。先ほどの大蛇……あれよりも強い魔の力を視線の先の竜種から感じる。それが意味するところ。つまりはあれらに憑いた『賢者様』の強力性。脅威になりうるであろうあれらの未知の力。ルラだけじゃなく、この場に居合わせる全てが息を呑むほどの威圧感。
 ウィンガーデンだけはけれど、依然として恐れる様子もなく、静かにあれらを睨みつけながら語り掛けて来る。

 ――先の蛇よりは歯ごたえのありそうな獣どもだ。皆、得物を構えよ。心して、……かかれ!

 ウィンガーデンの声と同時であった。周囲に居た彼女の率いる数十の武装兵士らが瞬時に中空へと舞い、自我失った竜種へと撃を仕掛ける。戦艦へと攻撃を始めていた竜種の数、六。それらへと果敢にも挑む兵士らを見てつかの間圧倒されたルラであったが、順応し自身もそのうちの一体へと飛び掛かった。

 魔法による制圧、物理打撃による制止を試みるも、竜種はびくりともせず炎を吐き、風を操り戦艦を墜とさんばかりの連撃を行ってくる。その力たるやこれまで遭遇した『賢者様』の中でも最も強く、圧倒的である。出立前にウィンガーデンが「襲撃を受けようとも傷一つつけられない」と称していたが、この猛攻では……
 その懸念をあたかも読み取ったように、ウィンガーデンの声が響いてきた。

 ――随分と軽く見られたものよ。我が戦艦≪ロドゥア≫の防護障壁をその程度で突破できようなどと、思いあがるな。竜種ふぜいが!

 言葉ののちである。それまで各竜種を相手どっていた全ての兵士が場より離脱を図ったのだ。ルラもまた近くの兵士に抱えられ、驚く間もなく戦艦の甲板へと着地していた。そして、赤が視界を奪い去る。

 ただ一言、凄まじい。灼熱の炎幕が瞬きの間に周囲へと拡散され、複数の兵士らが魔法によって甲板にいる人間を護るための防護障壁を幾重にも張り巡らせている。推測にすぎないが恐らくそのうちの一重でも欠けてしまえば、たちまち炎に巻かれてしまう。それほどの熱量と力を蓄えた炎だった。

 ――さすがに、仕留めきれはせぬか。……よろしい。ならば――

 ウィンガーデンの声は何も変わらず頭の中に響く。ルラは炎の眩さに目を開けていられなかったが、何が起きているかを≪視た≫。――『時の調停者』の力。現在から過去を司るもの。対象は『今このとき』も含まれる。そして、「今」とはすなわち「過去」のもの。認識した途端にそれは過去のものとなる。ゆえにルラは『それを認めた』。炎の中にはっきりと、彼女の姿、竜種らの姿が視える。

 ウィンガーデンの背に常に携えてあった大鎌が今一度、頸をもたげている。見る人を恐ろしくさせる雰囲気を漂わせるその様。命を刈り取るためのその形状。……過去に。彼女がこの国を救った英雄であることを、ルラは自身の目で確かめた。紛れもない、あの人は英雄だ、とそのように思った。
 赤い髪の子どものようなナリの提督。彼女の大鎌の一閃は、全てを薙ぎ浄化する力を持つ。先刻の大蛇もまた、傍からでは魂までも刈り取ったように見えたかもしれない。しかしその実は、『形』のみを断ち切った。ゆえにあの蛇自身は存命。『賢者様』回収ののち、本体である蛇は地上へと安置された。無論、傷一つもなく無事なままである。ウィンガーデンの大鎌とは、そういった力持つ聖なる″農具″であった。

 猛り全てを破壊せんとしていた竜種、そのすべてが、活動を停止する。ただ一振り、ウィンガーデンが大鎌を操っただけ。この光景をまなこに宿しているのはこの場では恐らくルラのみであろう。だが、確かに彼女の妙技を見届けた。ルラは人知れず畏怖を覚え、ただ彼女を見つめていた。

 ――『時者』、貴様の役儀であろう。捕らえよ。

「……はい。お見事にございます、ウィンガーデン提督閣下。」

 そうして、瞬きのうちに中空を焼き尽くしていた炎は幻のごとく消え去った。視界には、時が止まったように動かぬ竜種が六体。そして赤き英雄。これほどの力を持つ魔法使いを、ルラは他に知らない。
 詠唱ののちにルラはすべての竜種に憑いていた『賢者様』を回収する。先刻の『賢者様』含め、これで七柱。――が、刹那に理解の追い付かない事態が生じた。

 ――貴様ら、ケトゥパの民か。

 ルラを背に威嚇の言葉を投げかけるのはウィンガーデンである。気付けば再び炎が辺りを包み込み、状況が察せない。ルラ、そして甲板、戦艦そのものを護るための魔法をウィンガーデンが展開していることだけは分かった。
 ルラの目が辺りの様子を捉える。――大きな獣、……化獣人≪セルヴェスト≫とも違う、巨大な鳥人類だろうか。驚愕するのは、その数。一体どこにこれだけの数が隠れていたのか。あるいは、『沸いて現れた』のか。数十、数百にも及ぶ鳥人類が、戦艦を取り囲んでいた。
 ウィンガーデンがぼやいた『ケトゥパ』という単語にルラは聞き覚えがあった。深き渓谷にて静かにその身を″やつす″幻の民。その昔、人類種と共存して生きてきたはずなのだが、ある時を境に『狩り』が行われ、『ケトゥパ』の民は恐れなしてこの世から身を隠した。幻種史には確かそのように記されてあったはず。もしもウィンガーデンがいう通り彼らが『ケトゥパ』であるとするなら、時空監査局へ報告をすべきはず。――幻種史に記された通りの『狩り』という名の虐殺が行われたのであれば、正式に『裁判』を行わなければならないからだ。たとえ過去の出来事であろうとも、特定の種への大量虐殺は大罪にあたる。どのような理由があろうとも、″この世″の理を覆すことは許されない。

 『ケトゥパ』の民、うち一体が天へと手とその翼を振り上げた。彼の身体はほかの者よりひと際大きい。真っすぐにウィンガーデンを見つめる黄金色の目。ウィンガーデンとはまた違う威圧感に満ちている。

 ――異変満たされし我が谷、救済求めきたり。選ばれし『時司りし者』よ、羽翼となりたまへ。

 響く声は『ケトゥパ』の民のものだろう。異変、とはもしかして『賢者様』のことだろうか。そして谷……彼らが身を″やつす″という渓谷のことか。ルラの疑問をウィンガーデンが彼らへとぶつける。

 ――貴様らの根城が異変を起こしたのか。谷とは、ティトゥパ渓谷と呼ばれる所か。

 ――左様。異変の衝、四つ、我らが谷、凍土となり果て、逃れ来た。なすすべもなし。足掻き叶はず。

 ――ほう。つまりは、『流れ星』による異変とみた。『時者』よ、決断せよ。

 ウィンガーデンは振り向き、ルラを見る。ルラは考える間もなく彼らの谷へと向かう旨を承諾した。その道中にて、先ほどまで暴れていた竜種らも元ある住処へと帰還させる。――いまだ意識醒めないナコであれば、恐らくそうすることを望んだであろうとそう考えたためだ。ナコは虚ろなる目をしたまま、今も与えられたベッドにて眠る。正確には眠っているわけではないが、言葉をかけても反応がない。意識が戻らない以外での不調はないようなので、今はカーミラとクリスティが傍にてナコを見守っていた。

 ウィンガーデンの執務室にて、ルラはウィンガーデン、そして『ケトゥパ』の代表とも呼ぶべきひと際身体が大きいアシナフという『ケトゥパ』と共にいた。『ケトゥパ』の民はウィンガーデンらエツィニヤの民同様、伝心術にて会話を行うようだ。そのためにルラがこの国の言語を存じていなくとも彼らと意思の疎通が可能であるらしい。獣そのものの様相ではあるが、存外に賢い種族なのだとルラはそのように思った。

「あなた方の住まう谷の異変は、凍結だけなのですか?」

 ――否。凍土、他、幼子の失踪、錯乱に至る民あり、すべて、一夜の出来事なり。

 表情は変化しないが、声色から落胆の様子がうかがえる。谷が凍り付いた折の異変は、幼い『ケトゥパ』の失踪と、一部住民の暴走など。『賢者様』による悪効果である可能性は濃厚だと思った。ただの一夜にしてそのような異変を起こせるのは、強い力を持った証。そしてルラのいるこの世界でそこまでの驚異的な力を持つものは、間違いなく【魔法具現物質≪エターナルブレイズ≫】しかない。そして力の及び具合からして、彼が述べていた通り一柱のみではなく、四柱。しかも恐らくは複数の【魔法具現物質≪エターナルブレイズ≫】が融合しているようである。放置すれば凍土どころか、彼らの渓谷は跡形もなく消滅する恐れさえある。
 話を聴いていたウィンガーデンが語り掛けてくる。
 
 ――異変は理解したが、貴様らは何故ここ(戦艦)が分かった? 『時者』の力が留まる場所を察したとでも言うのか。

 ――否。図らずも、我ら逃げおおせた先、肥大せし力を察し、接触試みたまで。……『時司りし者』であるならば、我らの目、捉えたもう。我らに刻まれし記憶、そなたらの証明、永代に刻まれし誇りの証。我らが救世のあるじ。あいまみえられ、僥倖の至り。

 ――なんと。思いのほかに賢明なる民であったか。それも『時者』と縁が深いとは。我も耳慣れぬことであったわ。時者殿、こやつらの力、利用せぬ手はあるまい。こやつらは『時者』の下に就く者。支配望む者だ。

「支配、ですか? しかし、そのような記録は……」

 ――なに。時者殿の教本に書いておらずとも、こやつらの″血″に刻まれておるのだ。遠慮などせず、なんなりと望めばよい。

 ウィンガーデンの物言いにルラは戸惑った。確かに、アシナフはそのように言った。だが、いきなり支配をしろと言われても困る。彼らは気高き古代種の民。敬いこそすれ、支配など到底できない。アシナフの目はルラをじっと見つめ、敵意もないし威圧感もなかった。だからこそ彼らを支配などできそうになかった。
 すっかり困っているルラを眺めていたウィンガーデンが珍しくも微笑を見せる。そうして言うことには、

 ――であれば。時者殿はこう望めばよかろう。『我らに協力してくれ』と。さすれば、応じよう。有事の際、困難な状況、いかなる時にも彼らは現れ、そなたらを窮地より救うだろう。

 彼女からの進言に、ルラは素直に従うことにした。

 

 

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