創作作品展示室

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エターナルブレイド 閑話休題? 『ロキ皇子とエレナ姫のいちゃいちゃ話』

エレナは、どうしたものかと困惑する。
壁に追い詰められ、目の前の端正な顔立ちの婚約者を、ただ眺める。
こういったことには疎いとはいえ、この後に″起きる″ことについてはなんとなく、察しがついていた。
 
ロキは、エツィニヤ皇国から来臨したエレナの正統な婚約者だ。
あまり表情に変化がない不思議な雰囲気を纏う、その陰にはけれど、皇族としての気品さが確かにあった。
 
ここはエレナの自室であり、今は、従者のクラナダも誰もいない、ロキと二人きりの空間。
他愛のない会話が途切れたその瞬間に、彼は――ロキ皇子は、こうしてエレナを壁際へと追いやった。
彼のその目は何も語らない。ただ、澄んだ瞳に熱を帯びて、エレナをじっと見つめているだけ。
 
「ロキ様、あの、これはどういった、戯れでしょう?」
 
静寂に耐えられなくなったエレナが小声で尋ねる。
しかし、返答は予想もしないものだった。
 
「ええ。戯れにございます。王女殿下が、あまりにお美しくて、つい、魔が差しました」
 
ロキは薄らと口を開け、ようやく微笑のような形を見せた。
柔く細められる目に、思いがけず、エレナは鼓動を鳴らす。
思えばこうして年の近い男性と話すなど、生来なかった、と。
免疫がないという表現が正しいだろう。
 
なんだか気恥ずかしく感じたエレナは彼から目をそらして、胸元をぎゅっと握る。
その手に触れたロキは、追い打ちをかけるかの如く、囁いた。
 
「初心な反応が、愛しく思います。貴殿と契りを交わせる幸福感は、何にも代えられぬ喜び。――さて、姫君。我に、身を委ねるお覚悟を」
 
ロキの指がエレナの頬を撫で、そのまま滑るように額まで上がっていく。
色のある目つきと、手の動き。
顔に熱が集中し、自身がきっと赤くなっていることにも気づいてしまう。
エレナは恐れを抱き、ぎゅっと固く目を閉じた。
ロキが近づく気配を察し、身を強張らせる。
けれど、一向になにも起きない。
恐る恐る瞳を彼へ向けると、ロキは何か、愛しそうに笑みを浮かべてエレナを見つめたままでいた。
 
「ご無礼を。……姫君が、愛らしいので。つい、目を奪われておりました」
 
書簡を受けたときからの印象と何も変わらないロキ皇子。
彼は口説き文句の辞書でも持っているのかと思うほど、次から次へと恥ずかしげもなく褒め言葉を量産してくる。
エレナは、今までにないほど緊張している上に、軽く混乱しているというのに、彼は意にも介さず飄々として。
それが少し不公平だなどと思ってしまう。
 
エレナは珍しく気分を害して、けれど仕返しとばかりに、ロキを見つめた。
しばし目が合う。
先に動いたのはエレナの方だった。
 
ロキに一歩近づいて、軽くつま先立ちをする。
至近距離に見るロキの顔はなおも変わらぬ美しさで、どうしてもその表情を変えたかった。
自分ばかりが手のひらで弄ばれるのは、納得が出来ない。
しかし、この行動はさらに予想外の事態を招くことになる。
 
ロキは表情を変えないままに、エレナの腰を抱き寄せると、そのまま密着した。
互いの唇がもう僅かに触れ合うほどの距離にまで縮まり、エレナは瞠目する。
そうして、唇の先で彼は、掠れた声を出した。
 
「案外にも、大胆なのですね。でしたら、お望みのままに」
 
言葉の直後にロキの唇が、エレナのそれと重なった。
柔く暖かい感触に慣れず、エレナは目を閉じることさえ忘れる。
目の前にいるロキもまた、目を閉じることなく、じっとエレナを見つめたままで行為を継続し続けた。
次第に呼吸の仕方も忘れたエレナは、ロキの胸を強く押して解放を促す。
が、ロキは動じもしないまま、今度はさらに口内へと舌を伸ばしてきた。
一瞬間、エレナは得体の知れないものが舌先に触れ、思わず身体を跳ねさせる。
身体を這う痺れは、今までに感じたことがないものだった。
 
ロキは唇を離れさせ、けれどエレナを離すこともなく、熱い吐息を吐いて、囁いた。
 
「僥倖に、ございます。我が君。ますます、虜になってしまう」
 
そうして初めてロキは、血色の良い顔を見せた。
態度がなにも変わっていないように見えるが、どうやら彼は、表情の変化に乏しいだけなのかもしれない。
満足したように離れて部屋を出ていく間際、ちらりと見えた彼の耳は、薔薇の花のように赤かった。
 
残されたエレナもまた、つられて真っ赤な顔をして、そのままその場にしゃがみ込む。
めおとともなれば、当然、今後もこういったことは必至であろう。
けれど、とエレナは思う。
先ほどの口づけも、驚きこそしたが、嫌ではなかった、と。
無論、婚約自体は本意ではなかったが、少なくとも彼は悪い人ではないのだろう。
ロキの手つきの優しさは、確かにエレナに伝わっていた。
 
4Jun2019
 

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