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【一次創作】魔女が弟子を取らない理由【百合短編】

【魔女が弟子を取らない理由】
※百合です。

・登場人物
魔女
少女(のちに成人)

・キーワード
魔女×少女/百合/中世ヨーロッパ的な時代

 

「お願いします!私を、弟子にしてください!」

 何度。
 何度、断っても、また来る。
 諦めの悪い人間には、とりあえず、沈黙の術をかける。それでも、期待に満ちた目を向けてくる。全く、知恵持つ生物はこれだから苦手なのだ。

 見たところ、十代半ば。成人前と思われる少女は、数日前から根城に押しかけては、どのような仕打ちを受けてもめげることなく弟子入りを志願してくる。魔女は、これで54回目の嘆息を少女に向けて吐き出した。

 ――「迷いの森の人食い魔女」

 人々は、魔女のことをそう呼んで恐れてきた。何百年も前からそう「在った」から、このように恐れることなく何度も押しかけてくる人間の少女に対して、多少のうっとうしさを覚えていた。沈黙の術以外にも、拘束や「切り裂き」の術で浅い傷を肌へ受けても、少女は決して諦めない。何をしてそこまで魔女に弟子入りを願いにくるのか。けれど、彼女の短い人生などさして興味もなかったので、決して理由など聞こうとしなかった。
 魔女にとって唯一の趣味、読書を邪魔する少女はすでに、天敵以外の何者でもない。少女が来るようになってから、ただの一度も言葉を交わしたことはないし、口を開くつもりもなかった魔女は、少女の青い目をじろりと睨み据える。そしてやはり、見つめるだけで何も言わない。そうして、魔女は少女から目を離して、再び書物へ視線を落とす。

 弟子など取る余裕はないし、第一、そんな義理も縁もない。そもそも、理由など聞くつもりはないが、いつまで少女はこうしてここに来るつもりなのか。今もまた、少女は動こうともせず、魔女をずっと眺めて、弟子入りを承諾してくれるまで待っている。もしや、この愚かな少女は魔女がその口で拒絶の言葉を吐かなければ、延々とこの無駄な行為を繰り返すつもりでいるのか。魔女は、これまでで最も深いため息を吐き、そして少女をはっきりと睨んで、とうとうその口を開いた。

「お前、わたしを人食いの魔女と知っているのか」

 自身が思っていたよりずっと大きな声が出て、魔女は少し自身で驚く。このように人語を発声するなど、何十年ぶりだろう。そういえば自分はこんな声をしていたな、とそんなことを考えて、表情には出さないが多少の愉悦を覚えていた。
 魔女の問いかけに、少女は返事が出来ないためか、首を大きく縦に振った。肯定を示すその行動に、ますます魔女は困惑する。人食いと呼ばれているのにもかかわらず、毎日、毎日、姿を見せるのか。一体どういう神経をしているんだ。魔女の困惑は、次第に苛立ちに変わる。もともと人間など好きではない。こうして相手をすることさえ、不本意でしかないのだ。
 魔女は、次に少女を拘束する。目視叶わない縄で少女の胴体を腕ごと縛り上げて、そのまま中空へと浮遊させる。少女は、地に足がつかない状況になってもなお、怯えた様子を一切見せない。まるで、覚悟をしているかのような、そんな目の色を放っている。魔女はけれど、その姿勢に益々苛立ちを募らせた。歯をやや強く噛みしめて、先よりさらに大きな怒声を発する。

「お前は一体なんなのだ!?何をそんなに『死に急ぐ』!?わたしを恐れぬのはなぜだ。いつまでわたしに固執する気だ。お前のような人間など、一口で喰らうてしまうぞ!恐れるならば泣け!わたしに命乞いをしろ!さもなければ、ここでお前を喰らうてやるわ!」

 殺意が周囲の空気をねじ曲げる。久しく覚える脅威にか、森の中に潜む野生の生物が音を鳴らして逃げ出した。魔女は少女をさらにきつく縛り付けて、どうにかして泣かせてやろうと痛みを与え続ける。

 なのに。
 少女は決して泣かなかった。
 すでに術は最大出力に近い。あともう少し力を加えれば、少女は上下に真っ二つとなるだろう。なのに、少女は苦痛に多少顔をゆがめるだけで、決して、泣かない。我慢強いだとか、耐性があるだとか、そういう領域をとうに越えているように見える。それに、魔女はこうして少女を直に見つめて気付いたが、少女の身なりはひどく汚かった。そういえば、最初にここへ訪れたときから今まで、少女の衣服はすべて同じ。裸足で、すり切れた衣は、まるで古びた羊皮紙のごとく。髪もぼさぼさ。顔にも傷があり、魔女が与えた覚えのない痣や小傷が、見える範囲すべてに見える。
 それに気付いたとき、魔女は、瞬間的に怯んだ。途端に集中力が途切れ、少女はそのまま地面へと落下する。激しく咳き込み、地面を這いつくばりながらも、なお少女は魔女を見つめる。すべての術が解かれたために、少女は再び、声を出した。息も絶え絶えに、掠れたその声は、懇願を吐き出す。

「おね、が、い、します。私、を、弟子に、して、くださ、い」

 言葉の直後、また苦しそうに咳をして、少女はそのまま、意識を失った。魔女は、目の前にある小さな命を、じっと見つめる。

 この少女が孤児で、村から「生け贄」として出されたということを、魔女は「水鏡の儀」で知る。少女を自身の寝台で寝かせ、傷の治療を施してやり、あまつさえ衣類さえも着替えさせてやるなど、とうとう自分も気が狂ったかと思ったほどだった。
 生け贄の少女はしかし、儀式の場所へ向かう途中で道に迷い、それから根城に辿り着いたらしい。それが、魔女と少女がはじめて会ったあの日。それから少女は、追い返されるたびに自分でなんとか木の実や虫を食べて命を長らえさせて、毎日、毎日、懲りもせずにここへ訪れ来ていた。彼女は、行く場所も、帰る場所もない、ただの「要らない」人間だった。

 人間など、やはり身勝手な生き物だと、そう思う。同時に、憐憫の感情を少女に抱くほど、自分にもまだ人らしい部分が残っていたことにも、多少の呆れを感じる。
 魔女は、ずっと永く独りだった。孤独であっても、むしろそれは望んで自ら独りになったのであるが、こうして少女を傍に寝かせて思うのは、案外にも、独りではないというのは悪くない、ということ。それもそのはず。魔女にもかつて、師匠となった魔女がいたのだから。ずっとその魔女と共に生活をしてきたのだから。独りより、ふたりの方が居心地が良いことなど、知っていた。
 だが、正直、この状況は「不本意」だった。このようにして少女を延命措置するなど、それはつまり、彼女を養うことを意味する。弟子というよりは、使い魔という感覚であれば悪くはない。しかし、きっと少女は、自分から術を学びたいと言うだろう。不可思議な力を操れる、というのは、非力な人間にとって憧れ以上に何に代えても欲するものだ。少女もきっと、そういった力を得て、村に復讐をするに違いない。そんな下らないことのために術を教えるなどできるわけがなかった。

 少女の境遇は確かに哀れだ。孤児というだけで村の者から雑に扱われ、都合のいい生け贄として差し出されたのだから。かといって、少女の復讐劇に付き合ってやる気など魔女には毛頭ない。保護したのは、ただの気まぐれ。治療したのは、なんとなく。衣類を与えたのは、『そうしてやりたいと思ったから』。

 少女はそれから、三日三晩、目を覚まさなかった。そのまま死ぬかとも思われたが、四日目の朝、朝日が昇る頃に目を開いた。思考が動いていないのか、目覚めてからしばらくはぼんやりと天井を眺めていたが、横に座る魔女に気付いた少女は、恐れることなく、にこり、と笑う。

「魔女さん。私を、弟子にしてください」

 開口一番に、またその言葉。
 魔女は、ついに諦める。

 椅子から立ち上がった魔女は、少女の上に覆い被さる。至近距離に見る、小綺麗になった少女の目は、やっと驚いたように丸くなっている。彼女の青い目を見つめたままに、魔女は言葉を降らせた。

「お前も大概、諦めが悪い娘だ。……そこまで言うなら、弟子にしてやろう。契約の儀は、わたしの体液をお前のなかに注ぐことで完了する。今ならば、まだ、後戻りできるぞ。――お前は、わたしに誓うか?」

 少女の鼻先に、魔女の鼻先が触れる。少女は、決して魔女から目をそらさない。相変わらず、恐れない。怯えない。泣かない。ただ、彼女は口角を上げ、目を細めた。

「誓います。私は、あなたの弟子になりたい」

 いとも呆気なく、肯定される。魔女は、その言葉の後に、少女に口づけをした。自身の唾液を少女に注ぎ入れ、じっくりと、その唇を互いの唾液で濡らしていく。戯れに舌を差し入れたら、少女はさすがに体を微動させたが、なにひとつ抵抗をしなかった。
 直後、少女の瞳孔が収縮する。唇を離した魔女は、息を詰まらせる少女をじっと眺めた。しばらくしてから、少女は荒い呼吸を吐き出して、必死に肺へ空気を送り込んだ。――儀式が完了した証だった。本来なら、相性が悪い人間であれば、この時点で絶命している。そうなれば魔女は、その人間を喰らわなければならない。しかし、少女はどうやら、相性が良かったらしい。内心で、少しばかり残念な気持ちが芽生えるも、儀式が完了したのならば、これ以上はどうしようもない。ただ彼女の希望通りに、我が弟子にする他ない。

 魔女は、名のない少女に仮の名前を付けてやった。呼ぶときに名が必要だから、という単純な理由ではあったが、少女は「レイン」という仮称をとても気に入っていた。そしてレインは、無遠慮に魔女の名を聞きたがってきたが、魔女はその質問には決して答えなかった。

 レインが魔女の弟子として根城に居着くようになって、はじめのうちは使い魔同然の扱いをした。家事全般の他、森の中に狩りに行かせたり、燃料や儀式の材料を取りに行かせたり。どのような無茶な要望であっても、レインは愚痴や不満のひとつを零すことなく、必ずやり遂げて帰ってきた。家事も、徐々にこなせる手際が良くなっていき、半年も経つ頃には、立派な「使い魔」として使えるくらいにはなった。だが、レインは当初の目的であった「弟子」としての修行などをしていないことを、ここに来てようやく言い出したので、魔女は仕方なく、レインに魔道書や道具を貸し与えてやった。無論、魔道書などレインには読めない。道具も、どう扱えばいいかなど知らない。断片的にヒントくらいは与えてやったが、魔女は決して、レインのためになど教鞭を振るうことはなかった。レインはレインで、それを承知の上だったようで、独学により毎日飽きもせず読み解こうとした。
 レインが根城に居着いてから数年が経った。すっかり大人の女性になったレインは、独学を続けた成果が出始めていた。簡単な術くらいは容易にこなせるし、魔道書も何十冊と読みあさり、食事の準備などは召喚した「簡易使い魔」に手伝わせるなど、魔女としての頭角をじわじわと現していた。
 レインは、根城の屋根の上で読書を嗜む魔女を見上げて呼びかける。

「お師匠様、お食事の用意が出来ていますから、冷めないうちに召し上がってください」

 レインは、魔女がどこにいようがすぐに見つけて、こうして呼んだ。ある時は森の湖畔。ある時は、隣の山の小高い岩の上。どこにいようと、なんらかの探知機でも使っているのかと思うほど、的確に居場所を見つけて「お師匠様」と呼びかけてくる。よもや、ここまで鼻がきくとは。魔女は、レインの成長ぶりに複雑な心境を抱いていた。

 レインの食事はいつも美味しいし、家事は完璧であるし、悪口もこぼさない。これが人間同士の夫婦であれば、良妻であると褒められたことだろう。
 魔女はそう素直に感じて、食卓の席で、レインにそれを述べる。

「お前、そろそろ里にでも戻るか?適齢期であろう。別にわたしは、お前を弟子から解放することなどいとも容易い。……今ならば、お前を捨てた村に火を放つとか術を使って壊滅させるとか、そんなこと造作もなくできよう。わたしは別に止めはしない。好きにしろ」

 レインの手製のスープをすすり、魔女は事もなげにそう言ったが、レインは首を横へ振る。あの頃と変わらない青い目が魔女に注がれている。そうして、レインはまた笑う。

「私の居場所はここだけです。お師匠様のために尽くすだけ。私は結婚なんて望んでいません。――お話していませんでしたが、私がお師匠様の弟子入りを望んだのは、お師匠様が独りきりだったからです」

 レインはそれから、はじめて、魔女に弟子入りを志願した理由を明かした。

 レインがまだ名もない少女だった頃。生け贄として捨てられたのち、森をさまよい歩いていたら、魔女の根城の近くまで辿り着いた。そしてレインは、木陰から魔女の姿を見た。人を食う魔女の噂は知っていたし、実のところ、自分はその魔女の生け贄として差し出されていたことも、知っていた。けれど、命乞いなど考えていなかった。なんなら、とっとと食われてしまうほうが、よほど幸せだと思っていた。
 けれど。
 魔女は、とても寂しそうだった。
 何も喋らず、ただ活字を貪って、ひどく退屈そうだった。
 だから、自分は、話し相手になりたいと思った。全くもって差し出がましい真似だろうと、知ってはいたが、レインは魔女のために、この身を使うことを決めた。無論、生け贄として食われるのでもよかった。でも、それでは、魔女はずっと独りきりだ。それではあまりにも悲しい。話し相手になるのに都合がいいのは、弟子になることだ、と考えたのだった。

 レインの想いを聴いた魔女は、心になんだかむず痒さを自覚する。まさか、人間に心配されるとは。嬉しいとは思えない。かといって、憤怒の感情もない。ただただ、どう思えばいいか分からず動揺する。

「……変わった娘だとは思っていたが、思う以上にお前は正気ではないのだろうな」
「きっとそうかもしれません。だって私は、お師匠様と一緒にいられることが、とても幸せだと思っていますから」

 言うなり、レインは頬を染めて笑う。
 魔女は居心地が悪くなって、レインを見ていられず、ふいと視線を逸らした。こんな態度を取るのは、何世紀ぶりだろう。否、きっと魔女になってからはじめてかもしれない。

 そして。

 その日の夜に、魔女はレインと身を交わした。あの時と同じで、レインは一切抵抗をしなかった。ただ受け入れ、愛しいと、そのように囁いてきた。魔女は、彼女のその親愛に、ただ感服した。

 翌朝、レインを呼び出して魔女は、森の最奥の、朽ちかけた祭壇の前にいた。小さな祠があり、周囲には草が生えない場所。――ここにくるのは、何世紀ぶりか。すでに記憶になかったが、朝日さえ差し込まない薄暗い空間で、魔女はレインと向き合った。
 手には、錫杖。片腕の長さほどのそれは、かつて魔女が師匠からもらったもの。これを持ち出すのは、これがはじめてだった。レインの顔に、不安げな色が浮かんでいる。彼女は昔から変わらず、勘が鋭いようだ。魔女は、小さく笑みをこぼす。

「さて。お前に伝えねばならんことがある」

 魔女はそのように言い、錫杖を小さく揺らす。涼やかな金属の音が、静かな早朝にひとつの波をかき立てる。
 それは、「真名の儀」。
 魔女にとっての、唯一、最初であり、最期の儀。
 魔女は、レインを見つめたままに、語る。

「――お前は、立派な魔女となったな。魔女とは、本来……もともとは「人間」なのだということは、お前も知っているだろう。わたしもかつては、人間だった。師に出逢い、師から学び、師と共に生きた。そして、師は、消えた。なぜか。それは、魔女というものの根幹にある。……魔女は、ふたりは存在できない。なぜなら、魔女は、自身の弟子に、その名を冠することで、先代の魔女はこの世から消える運命にあるからだ」

 レインの目が瞠目する。それもそうだ。こんなことは、今まで一言も言っていないし、匂わしてもいなかったこと。……なにせ、彼女に与えた魔道書は、ことごとく、魔女のことを意図的に『排除』したものだから。魔女のあるべき姿。魔女とはなにか。「魔女が弟子を取ったあと、『どう』なるか」。すべて、彼女に知らせないままに生かしてきた。

「魔女は、不老不死の存在だ。で、あれば、必然、お前も気付こうな?不老不死というわりに、わたし以外の魔女を見たことがない、と。不老不死であるならば、この世には、何百人と魔女がいるはずだ、と。しかし、実際には、この世には唯一『わたし』がいるだけだ。なぜか?――魔女は、弟子にその名と共に、命を継承するのさ。……わたしは、昨夜、お前と我が身を交わした。体液を交わらせた。契約の儀、そして、「継承の儀」。この二度の儀によって、すべてが継承される」

 魔女の持つ錫杖が、僅かに光を帯びてきた。その光は、淡いものから、徐々に強い色を放ち始める。周囲の木々、自然から、一切の音が消え去り、魔女とレインの周囲に、青い煙が立ち上る。気付けば、二人の足下に、赤色の魔方陣が展開されていた。レインは、絶望の表情をしたまま動けないようだ。魔女は構わず、続ける。

「お前が立派な魔女になったとわたしは認めた。だから昨夜、お前を抱いたのよ。――我が名は『ヴィエル・デ・ロア』。この世界の唯一にして完璧な魔女。そして、お前の名は……」
「や、やめてください、お師匠様!それ以上は言わないで!私は、私は!あなたを、愛して――」

 レインの声が消える。儀式は、何者であっても邪魔できない。一度はじめたら、取り消すことは叶わない。

 レインは、はじめて涙をこぼした。大粒の涙が頬にいくつも跡を刻む。口を大きく動かすが、一切の音が出てこない。魔女『ヴィエル・デ・ロア』は、彼女に微笑手向けたままに、けれどどこか、寂しそうに、――愛おしそうに、手を伸ばし、レインの頬を撫でた。

「汝の名は」

 そうして、紡がれる。

「ヴィエル・デ・ロア」

 刹那。
 魔方陣が鮮烈に輝く。周囲にまばゆい光、そして突風が吹き荒れて、レインもろともすべてを飲み込む。レインの目から溢れた涙を、魔女『ヴィエル・デ・ロア』が舐め取った。

 ――しあわせに生きろ。我が弟子よ。

 

 

「……お願いします!私を魔女様のお弟子にしてください!」

 根城に訪れ来る少女。この光景は、自身でははじめてであるが、何世紀か前に、確かに「自分が」行っていたなあ、と思う。
 魔女は嘆息し、けれど、どこかに懐かしさを覚えながら、少女に「沈黙の術」をかけて、黙らせた。

 独りきりは、やはり、寂しい。
 けれど、「道連れ」が「同じように」、「独りになる」のは、もっと「さみしい」。

 魔女は、そうしてはじめて知る。
 なぜ独りでいるのか。
 なぜ、弟子など、取らないのか。
 そうか、こんな気持ちだったのですね。
 お師匠様。

 なぜだか、歴史は繰り返されるけれど。
 それでも魔女は、思い出す。

 あの日、交わした口づけを。
 そして、「しあわせに」という、誓いを。

「……あなた、私を、人食いの魔女と、知らないのね」

 深い森のなか。
 「迷いの森の人食い魔女」。
 繰り返さないために、長い年月をかけて築き上げた「人食い」というデマ。
 それでもやはり、少女はふたたび現れる。

「――あなたは、私に誓える?」

 その契りは、何度も、何度も。
 魔女は想い、不敵に微笑む。

 


20Oct2019初瀬川

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